日本管理会計学会
The Japanese Association of Management Accounting
学会概要 学会諸規程 学会組織 学会誌関連規定 入会案内 刊行物紹介
ホームへ
各セクションからのお知らせ
セクション

フォーラム

2017年度 第1回フォーラム開催のお知らせ

2017年3月 7日|準備委員長 白銀良三(国士舘大学)

日本管理会計学会会員各位

 春草萌えいずる季節を迎え、日本管理会計学会会員の皆様には、ご清祥の御ことと心よりお慶び申し上げます。
 来る4月15日(土)の午後、日本管理会計学会2017年度第1回フォーラムを白銀良三氏を準備委員長として国士舘大学世田谷キャンパスにて開催させて戴くこととなりました。
 今回のフォーラムは「中小企業における管理会計の展開可能性」という テーマのもとに、研究者と実務家の皆様から報告して戴き、さらに ディスカッションもお願い致しております。是非、ご参加下さいますよう お願い申し上げます。
 また、フォーラム終了後、懇親会も予定致しております。こちらの方も お時間が許す限りご参加賜りますようお願い申し上げます。
 なお、当日午前から2017年度第1回常務理事会および理事会が開催されますが、役員の方々には別途ご連絡申し上げます。

■日時・会場
 日時:2017年4月15日(土) 13:50-19:30(受付開始 13:20)
 報告会場:34号館A棟A208教室
 受  付:34号館A棟2階フロア

■フォーラム参加費:1,000円(会場受付にて当日払い)
 懇親会費 :2,000円(会場受付にて当日払い)

■基調講演および報告
 統一論題:『中小企業における管理会計の展開可能性』

13:50-14:00 学会長挨拶

○基調講演
14:00-14:40 古園伸一郎 氏(日本政策金融公庫) 
 「日本政策金融公庫と中小企業経営」

(休憩20分)

○論題報告
14:50-15:30  川島和浩 氏(苫小牧駒沢大学)
         「苫小牧地域の中小企業管理会計の現状と課題?M社を中心として―」

15:30-16:10  本橋正美 氏(明治大学)
 「中小企業管理会計の前提条件としての中小企業の発展段階説」

(休憩10分)

16:20-17:20 パネルディスカッションおよび質疑応答  座長:井岡大度 氏(国士舘大学)

■17:30より懇親会(19:30頃までを予定)
 場所:34号館10階スカイラウンジ

■会場 国士舘大学世田谷キャンパス
〒154-8515東京都世田谷区世田谷4-28-1
アクセス http://www.kokushikan.ac.jp/access/setagaya/

■申込み方法
 参加申込はE-mailにて中井誠司(snakaiあっとkokushikan.ac.jp)宛に、4月6日(木)までにお願い申し上げます。また、お申込みに当たっては、(1)お名前、(2)ご所属、(3)お電話番号、(4)懇親会出欠の有無をお知らせ下さいますようお願い申し上げます。

2016年度第3回フォーラム開催のお知らせ

2016年11月 3日|目白大学 今林正明

日本管理会計学会会員各位

 菊花薫る季節 日本管理会計学会会員の皆様には、ご清祥の御ことと心よりお慶び申し上げます。
 来る12月17日(土)の午後、日本管理会計学会2016年度第3回フォーラムを目白大学新宿キャンパスにて開催させて戴くこととなりました。
 今回のフォーラムは「日本の主要企業における原価企画の現状と課題」というテーマのもとに、研究者と実務家の皆様から報告して戴き、さらにディスカッションもお願い致しております。是非、ご参加下さいますようお願い申し上げます。
 また、フォーラム終了後,懇親会も予定致しております。こちらの方もお時間が許す限りご参加賜りますようお願い申し上げます。

■日時・会場
日  時:2016年12月17日(土) 13:30-18:45(受付開始 12:50)
報告会場:目白大学新宿キャンパス10号館9階10903教室
受  付:目白大学新宿キャンパス10号館9階エレベーターホール

■参加費
フォーラム:1,000円(会場受付にて当日払い)
懇 親 会 費:2,000円(会場受付にて当日払い)

■報告
統一論題:『日本の主要企業における原価企画の現状と課題』
13:30~13:45 田中雅康氏(広島都市学園大学)
      「日本の主要企業における原価企画の現状と課題」
13:45~14:45 渡邉昌俊氏(リコー)
      「リコーのVA推進・原価企画活動について」
14:55~15:55 荻原健一氏(いすゞ自動車)
      「いすゞ自動車の原価企画活動」
(休憩15分)
16:10~17:00 報告者3名による質疑応答ならびにパネルディスカッション 

■懇親会
時間:17:30より18:45頃までを予定
場所:目白大学新宿キャンパス1号館地下ローズウッドラウンジ

■会場
目白大学新宿キャンパス
 〒161-8539 東京都新宿区中落合4-31-1
 最寄り駅からのアクセス https://www.mejiro.ac.jp/access/

 10号館(もっとも高い9階建ての校舎です。)
 https://www.mejiro.ac.jp/univ/campuslife/shinjuku/life/campus_map/

■申込み方法
 参加申込はE-mailにて今林正明(imabayashiあっとmejiro.ac.jp)宛に、12月12日(月曜日)までにお願い申し上げます。また、お申込みに当たっては、(1)お名前、(2)ご所属、(3)お電話番号、(4)懇親会出欠の有無をお知らせ下さいますようお願い申し上げます。

2016年度 第2回フォーラム(第49回九州部会共催)開催記

2016年9月11日|篠原巨司馬 (福岡大学)

forum2016-2-1.jpg 2016年7月30日、福岡大学において「管理会計の実務に与えるインパクト」というテーマのもと九州部会との共催で行われた。結城秀彦氏(監査法人トーマツ)、吉原清嗣氏(Development Academy of the Philippines Visiting Fellow,The Vietnam National University Visiting Fellow,京都大学大学院)、宮地晃輔氏(長崎県立大学)の3名から報告が行われ、最後に大下丈平氏(九州大学)を座長にパネルディスカッションが行われた。

■第1報告 結城秀彦氏(監査法人トーマツ)
 「管理会計の財務諸表監査に与えるインパクト-管理会計が関連する監査の諸側面-」
 第1報告ではまずforum2016-2-2.jpg、管理会計が財務諸表監査においてどのようなインパクトを持っているのかという点について報告された。財務諸表監査にとって管理会計は、会計処理・開示基準としての側面、監査手続における手法の活用としての側面、そしてリスク・アプローチにおける業績評価会計の勘案としての側面があるとし、それぞれについて説明がなされた。
 会計処理・開示基準については原価計算基準の実態主義と会計ビッグバン以降のルール主義とで乖離が起こっているが、実態主義で妥当性が判断されていることにより、基準の見直しに対するインセンティブが働かず、GAAPの一部を構成しているとの認知の低下をもたらしているのではないかとの懸念が示された。手法の活用としては重要な虚偽表示を発見する際に、伝統的財務比率分析、キャッシュ・コンバージョン・サイクル、損益分岐点分析・投資の経済性計算などが行なわれていることが説明された。リスク・アプローチにおける業績評価会計の勘案では監査における虚偽表示リスク要因・統制環境としての管理会計のインパクトについてまとめられた。管理会計は虚偽表示リスクを評価する際の統制環境として捉えられ業績評価制度によってインセンティブが発生するために注目する必要があるとした。

■第2報告 吉原清嗣氏(Development Academy of the Philippines Visiting Fellow,The Vietnam National University Visiting Fellow,京都大学大学院)
 「日本の地域金融システムの他国への運用可能性について-中小企業の育成と管理会計の視点から-」forum2016-2-3.jpg
 第2報告では、中小企業の育成を担ってきた地域金融システムの他国で運用可能性についての研究が報告された。他国への適用可能性を検討するために、日本的金融構造の性質が歴史的に整理され、その後にフィリピン、ベトナムの状況と比較され、日本的金融システムの可能性について発表された。
 ?日本の金融実務は1997年から2006年ほどまでの間に転換点を迎えたとし、近年では「長期継続する関係の中から、借り手企業の経営者の資質や事業の将来性等についての情報を得て、融資を実行するビジネスモデル」であるリレーションシップバンキングの推進が金融庁主導のもと行われている。しかしながら、京都の地域金融機関ではかねてよりリレーションシップバンキングに取り組んでいた。地域金融機関の幹部によると日本独自の型があり、それは顧客が発展するために援助することであり、信用をつける術を教えたり、顧客に不足するものを教えたりして最終的な行為として貸出があるというようなものであった。そして、そのような金融システムこそ、発展途上のベトナム、フィリピンの発展に寄与する可能性があると主張された。

■第3報告 宮地晃輔氏(長崎県立大学)
 「中小製造企業における管理会計の導入実態に関する研究-長崎県佐世保地域での調査を基礎として-」forum2016-2-4.jpg
 第3報告では、長崎県佐世保地域に所在する中小製造企業における管理会計の導入実態についての調査研究が報告された。本調査においては、「長期経営計画・中期経営計画・短期利益計画から接続する予算編成が、中小製造企業において実際にどのレベルで行われているのかという点」と「予算管理の中で見られる管理会計とリンクした原価計算が実態としてどのレベルで行われているかという点」を意識して行われた。またデータは九州北部税理士会に所属する税理士法人一法人への訪問調査と佐世保市に所在する機械器具製造企業へのインタビュー調査によって得られたものを用いている。
 税理士法人への調査の結果、中小製造業の管理会計導入は実態として脆弱なものであることが示された。中長期の経営計画や短期利益計画を作成している企業は稀であり、製品ごとの原価計算も難しく、目標値を設定したり業績指標を利用したりする経営者も稀であるとの結果であった。一方で、機械器具製造企業への聞き取り調査では社員全員で会計情報を共有し社員のモチベーションを高めたり、予算管理制度を導入していたりと高度な管理会計が導入されていたことが示された。中小企業であっても管理会計能力が高まるパターンとして、代表取締役の会計教育歴や職歴が挙げられた。またこのような好例を地域的に伝播させることの可能性が論じられた。

■パネルディスカッション 大下丈平氏(九州大学)、結城秀彦氏、吉原清嗣氏、宮地晃輔氏
 大下丈平氏の司会でパネルディスカッシforum2016-2-5.jpgョンが行われた。まず、大下氏より3報告の総括が行われ、その後にフロアーからの質疑応答を受け付ける方式で進められた。3報告とも、バックグラウンドの違う立場であったが、日本経済の大きなトレンドのもとで、どのような課題があるのかという点で共通しており、このディスカッションでも、管理会計に限定せず、現状の課題に対して我々管理会計研究者はどのように考えるのかという視点から議論をしていきたいとの座長の宣言のもとディスカッションが進められた。3報告とも企業実務の具体的事例が多かったため、フロアーからの質問も多く非常に活発な議論が行われた。

 なお、本フォーラムの参加者数は43名であった。

2016年度 第1回フォーラム開催記

2016年7月15日|仲 伯維(亜細亜大学・非常勤講師)

■■2016年4月16forum2016-1.jpgのサムネイル画像日(土)13時50分,日本管理会計学会2016年度第1回フォーラムが,亜細亜大学において開催された(フォーラム準備委員長:亜細亜大学・大島正克氏)。今回のフォーラムは,「サービス・リエンジニアリング―わが国宿泊産業のインバウンド戦略にフォーカスをあてた考察―」という統一テーマに沿って,研究者と実務家が報告を行うというプログラムであった。
 開会にあたり,フォーラム準備委員長である大島副会長から開会の挨拶とともに本フォーラムの統一テーマ決定の経緯の説明があった。引き続き,青木章通氏(専修大学)の司会のもと,伊藤嘉博forum2016-2.jpgのサムネイル画像氏(早稲田大学),庵谷治男氏(長崎大学),橋本明元氏(株式会社王宮 道頓堀ホテル・専務取締役)の3氏の研究報告があり,最後に青木氏をディスカッサントとして,パネルディスカッションが行われた。
 本フォーラムは,全国から40名を超える研究者・実務家の参加を得,各報告に対しフロアから活発な質問や意見が出るなど,熱のこもった議論が繰り広げられた。その後,場所を移して懇親会が行われ散会となった。
 各先生方の報告の概要は以下のとおりである。


■フォーラム・スケジュール
 開会挨拶(13:50-14:00)大島正克氏(フォーラム準備委員長:亜細亜大学)

 第1報告 伊藤嘉博氏(早稲田大学)
 報告(30分):「宿泊産業におけるサービス・リエンジニアリングの課題」

 第2報告 庵谷治男氏(長崎大学)
 報告(30分):「サービス・リエンジニアリングとアメーバ経営―宿泊産業の事例にもとづく考察―」

 第3報告 橋本明元氏(株式会社王宮 道頓堀ホテル・専務取締役)
 報告(30分):「日本を好きになって頂くという使命を持って」

 パネルディスカッション&ディスカッサント:青木章通氏(専修大学)
 報告者によるDiscussionsおよびQ&A(60分)

■第1報告 伊藤嘉博氏(早稲田大学)
     「宿泊産業におけるサービス・リエンジニアリングの課題」
 伊藤氏は,日本宿泊産業,とりわけ中小規模の組織が積極的に取り組むべforum2016-3.jpgき課題として,インバウンド戦略の実施を識別したうえで,これを支援するアプローチとしてサービス・リエンジニアリング(SRE:Service Re-Engineering)の基本概念および具体的なサポートツールについて解説され,日本宿泊産業におけるSRE活用の重要性を提案された。
 このなかで,伊藤氏は日本における宿泊産業の現状と課題について,中小のホテル・旅館では,特に経営のためのノウハウが欠如していると指摘し,この解決方法としてもSREの活用が有意義であると主張する。
 さらに,SREの特徴の一つはサービタリティ(Servitality)であるとし,その概念を提起し,サービスという抽象的な概念を操作可能なものへと転換すべきであると述べ,具体的には,商品としてのサービスの構成要素(サービタリティの3要素)であるクオリティ(Quality),ホスピタリティ(Hospitality),アメニティ(Amenity)の関係において,「Q×H+A(プロセス)=ACbS(結果)」という「ACbS戦略等式」の有効性を提唱した。
 このACbSは顧客満足(CF)と同義ではなく,ロイヤルティにつながる深い影響力を秘めたもので,Qの確保なしにHを設計開発しても効果は持続しない。また,Aは即効性があるが,その提供には慎重さが求められると述べた。
 最後に,SREの実践をサポートするツールとして,原価企画(VE),BSC(バリュー・ドライバー分析ほか),コンペティターコスト分析,アメーバ経営,サービスABCD(Attribute-Based Cost Deployment)ほかを挙げた。今後の検討課題は「個々のサポートツール有効性の検討,組織の形態,規模などによるSRE実践プロセスの変化の検証,関連組織・団体とのコラボレーションの在り方をサービスサプライチェーンとして体系化するアプローチの探究にある」とし,こうした課題は「宿泊産業に限定されるものではなく,サービス産業全体に共通するものである」とした。


■第2報告 庵谷治男氏(長崎大学)
     「サービス・リエンジニアリングとアメーバ経営
      ―宿泊産業の事例にもとづく考察―」
 庵谷氏は,サービス・リエンジforum2016-4.jpgニアリング(SRE)と京セラのアメーバ経営についてレビューを行い,アメーバ経営を「人的・物的および情報面のインフラの整備」をサポートする経営管理システムとして位置づけ,宿泊産業におけるアメーバ経営導入事例に基づき,本研究の目的を,SREの情報インフラとしてアメーバ経営がいかなる役割を果たしうるかを明らかにすることとした。
 続いて,2004年にアメーバ経営を導入した「ホテル日航プリンセス京都」における2010ー2014年の5年間に及ぶ調査(早稲田大学清水孝教授との共同調査)に基づき,同社のアメーバ経営が,なぜ京セラのアメーバ経営とは異なる方法を採用しているかついて,組織構造と管理会計の視点から4つの論点を導き出した。
 論点1  採算単位の「下位展開」の非採用(組織構造)
 論点2 「時間当り採算」の非採用(管理会計)
 論点3 「週日次展開」の非採用(管理会計)
 論点4 「社内売買」の異なる形式(管理会計)
 以上の論点から,「ホテル日航プリンセス京都」では,現場の責任者がサービス提供活動に専念できるようにするために,「価値付加的時間(サービス提供時間)」の安易な削減を回避し,かつ最小限の採算管理実務(事務処理時間など)による採算管理の実現を意図し,京セラアメーバ経営を修正して利用していると考えられると結論づけた。
 アメーバ経営は「有する機能を効果的に用いることによって,目標の進捗管理を通じ現場の責任者が『最小コスト』によるサービス提供を意識できるようになる。京セラアメーバ経営を全く同様に導入可能かどうかは導入組織の事業特性に依存する」と指摘し,さらに「アメーバ経営は京セラの事業特性をベースに生成された管理手法であり,事業特性が異なる場合はプロトタイプ(京セラアメーバ経営)からの修正が必要な可能性が高い」と指摘した。
 最後に「『サービスコンテンツを最小のコストで作りこむ』ことに対して,アメーバ経営がいかなる役割を果たすかは今回の調査では対象としていない」ので,これについては今後の課題にしたいと述べた。

■第3報告 橋本明元氏(株式会社王宮 道頓堀ホテル・専務取締役)
     「日本を好きになって頂くという使命を持って」
 橋本氏は,最近,急forum2016-5.jpg成長しているビジネスホテル「道頓堀ホテル」の役員として"おもてなし"の徹底についてのこれまでの経験が語られ,今後のサービス価値の維持・向上を図るためには継続的改善が必要であり,さらに,これまでのホテル業界の固定概念を覆すなどの戦略も必要であると述べた。
 日本におけるホテル業界では,海外の旅行会社が日本の仲介代理店を通じて日本のホテルに顧客を紹介し,ホテル側が日本の仲介代理店に手数料を支払うという仕組みになっている。橋本氏は「明確な料金を設定し,安易な値引きはしない」と述べ,他社との差別化を図り,模倣ではなく,自社のオリジナリティを追求することの重要性を強調した。
 売上高拡大のための効果的コストの源流管理が必要であるとし,仲介代理店からの価格競争から脱出し,新たな販路の開拓が不可欠であり,異なる商品やサービスを提供することが極めて重要となるが,その役割を従業員が喜んで担うところに当ホテルの成功の鍵があるとした。橋本氏は客層を主に台湾,香港,韓国およびシンガポールなどの東アジアの20歳代後半の女性個人客に絞り込み,販売ルートを海外の旅行会社に特化した。橋本氏は言葉の壁を越え,自分の足で各国の旅行代理店を一軒一軒歩いて交渉し,競合の少ない海外販売ルートを手に入れたことで,国内旅行代理店への支払う手数料を削減させたとした。
 また,宿泊客の9割超が外国人であるが,日本では,海外のお客様に特化したサービスを提供するビジネスホテルが無い点に着目し,「ホテルには,宿泊客の思い出作りに徹して日本を好きになってもらう使命がある」とし,効率的サービス価値を明確に識別し,徹底的サービスを提案し続けているとしている。
 具体策の一つが19に及ぶ無料サービスの提供である。たとえば,フロントでのおしぼりサービス,飲み物や化粧品の提供,アジア諸国を中心とした外国語対応の観光案内,無料国際電話サービスなどを実施する他,おもてなしとしてラゲッジチェッカーの設置,30ヶ国超の通貨両替手数料無料サービス,ハラールフードの用意など徹底的サービスを実施している。また,海外のお客様に,日本のおもてなしを体験・体感してもらうために,「心に残る想い出」を提供するとともに,平日は着物体験などの日替わりイベントを開催し,日本の伝統文化を味わうことができるようにしている。
 その結果,2007年時点では2割であった外国人宿泊率が,2013年には9割超になり,年間客室稼働率は2007年の7割台から9割を超え,3年間で売上高も大幅に増大した。
 サービス産業のコストマネジメントの困難性はサービスコストの大半は人件費であることに起因する。コスト削減は直ちにサービスの低下に繋がる恐れがある。橋本氏は「1:1.6,1:1.62,1:1.63」の法則にて人事理念に基づく社員教育と従業員満足を向上させている。全社員に年間20万円の決裁権を委譲,自らが企画段階から参画した時に,2.56倍の効果があるとし,自主性を尊重する経営を図る。この上に自ら共感し共鳴して参画すると4.1倍の効果があると考え,権限委譲の効果による社員のやりがいは企業を超え業界全体の向上という使命感を持つに至るとしている。転職率の高いホテル業界において,当ホテルはこの数年離職はゼロということである。
 聴いている側も,橋本氏の熱のこもった話の内容から大いに感激し思わず落涙するほどであった。

■パネルディスカッション
 forum2016-6.jpg青木章通氏,伊藤嘉博氏,庵谷治男氏,橋本明元氏
 パネルディスカッションは,青木氏の司会とディスカサントの2役によって,進められた。各報告者が発表の要点を述べたあと,青木氏から各報告者に対し,2問ずつ質問が出された。そのあと,フロアから自由に質問を受け,活発なディスカッションが展開された。

■懇親会
 17時40分,場所を同会場の2階上の多目的室に移して,懇親会が開催された。30名を超える参加者を前に原田昇会長の挨拶があり,引き続き櫻井通晴専修大学名誉教授による乾杯のご発声ののち,懇談に入った。和やかな歓談ののち,19時15分頃,散会となった。

日本管理会計学会2016年度第1回フォーラムのご案内

2016年3月11日|フォーラム担当 大島正克

日本管理会計学会会員各位

 早春の候 日本管理会計学会会員の皆様には、ご清祥の御ことと心よりお慶び申し上げます。
 来る4月16日(土)の午後、日本管理会計学会2016年度第1回フォーラムを開催させて戴くこととなりました。今回のフォーラムは「サービス・リエンジニアリング―わが国宿泊産業のインバウンド戦略にフォーカスをあてた考察―」というテーマのもとに、研究者と実務家の皆様から報告して戴き、さらにディスカッションもお願い致しております。是非、ご参加下さいますようお願い申し上げます。
 また、フォーラム終了後、懇親会も予定致しております。こちらの方もお時間が許す限りご参加賜りますようお願い申し上げます。

■日時:2016年4月16日(土)13:50-17:15
■場所:亜細亜大学(武蔵野キャンパス)2号館
■受付:2号館4階エレベータ前
   (報告会場:2号館4階241教室)(会員控室:2号館4階242教室)
■交通アクセスwww.asia-u.ac.jp/information/access
    JR中央線 武蔵境駅北口より
    ・徒歩 12分 ・ムーバス(市民バス)境五丁目下車1分

■参加費:1,000円(会場受付にて当日払い)
 参加申込はE-mailにて大島正克(oshima"あっと"asia-u.ac.jp)宛に、4月11日(月)までにお願い申し上げます。なお、お申込みに当たっては、(1)お名前、(2)ご所属、(3)お電話番号、(4)懇親会出欠の有無をお知らせ下さいますようお願い申し上げます。

■フォーラム・スケジュール
統一論題:サービス・リエンジニアリング
     ―わが国宿泊産業のインバウンド戦略にフォーカスをあてた考察―

司会:吉岡 勉(産業能率大学)

13:50-14:00 開会挨拶

14:00-14:40 宿泊産業におけるサービス・リエンジニアリングの課題(仮題)
       伊藤 嘉博(早稲田大学)

14:40-15:20 サービス・リエンジニアリングとアメーバ経営
       ―宿泊産業の事例にもとづく考察(仮題)―
       庵谷 治男(長崎大学)

15:20-16:00 日本を好きになって頂くという使命を持って
       橋本 明元(株式会社 王宮 道頓堀ホテル専務取締役)

16:15-17:15 パネル・ディスカッション
           進  行  役:吉岡  勉(産業能率大学)
           報  告  者:伊藤 嘉博(早稲田大学)
                   庵谷 治男(長崎大学)
                   橋本 明元((株)王宮 道頓堀ホテル)
           ディスカッサント:青木 章通(専修大学)

■懇親会 
 時間:17:30-19:30
 場所:2号館6階多目的室A・B
 会費:3,000円(会場受付にて当日払い)

2015年度第3回管理会計フォーラムのお知らせ

2015年11月 9日|管理会計フォーラム担当 青木雅明(東北大学)

日本管理会計学会会員各位

 晩秋の候、皆様におかれましてはますます御健勝のこととお慶び申し上げます。
 さて、2015年度第3回フォーラムは下記の要領で同志社大学において開催致します。今回ご報告をいただく方は、大学院生と大学に勤務されてから数年という若手研究者の方々で、いずれも将来有望な研究者です。皆様と一緒に活発な議論ができれば、と考えています。
 また、フォーラム終了後、懇親会も予定しております。こちらの方にもご参加いただくようよろしくお願いいたします。

日時・会場
日時:2015年12月5日(土)13:00-17:00
会場:同志社大学今出川キャンパス(〒602-8580 京都市上京区今出川通烏丸東入)
   至誠館2番教室(S2)

交通アクセス・キャンパスマップ
アクセス:地下鉄烏丸線 今出川駅下車すぐ
     http://www.doshisha.ac.jp/information/campus/access/imadegawa.html

キャンパスマップ
     http://www.doshisha.ac.jp/attach/page/OFFICIAL-PAGE-JA-42/55135/file/campusmap_imadegawa.pdf


参加費:1,000円(会場受付で当日払い)

フォーラム・スケジュール(敬称略)
・13:30-13:35 会長挨拶
・13:40-14:15 第1報告
「ストックオプションの付与と経営者の機会主義的行動」
 報告者:遠谷 貴裕(明星大学)
 コメンテーター:細海昌一郎(首都大学東京)
・14:15-14:50 第2報告
「中国における中小企業管理会計の現状と課題−大連での調査を中心にして−」
 張宏武(関西大学商学研究科博士後期課程2年)
 コメンテーター:大島正克(亜細亜大学)
・14:50-15:25 第3報告
「防衛調達に関する契約時概算原価と実際原価の差異に関する考察:利益調整研究手法の応用」
 報告者:尻無濱 芳崇(山形大学人文学部)・森光 高大(日本経済大学経営学部)
 コメンテーター:威知謙豪(中部大学)
・15:25-15:35 休憩
・15:35-16:10 第4報告
「アメーバ経営が有するPDCAサイクルの分析」
 報告者:大西智之(早稲田大学大学院博士後期課程1年)・町田遼太(早稲田大学大学院博士後期課程2年)
 コメンテーター:潮清孝(中央大学)
・16:10-16:45 第5報告
「業績評価と業績指標の操作:主観的業績評価の役割」
 報告者:北田智久(神戸大学大学院博士後期課程2年)
 コメンテーター:中川優(同志社大学)

懇親会
時間:17:30-19:00
会費:3,000円(予定)、当日会場にて支払い
場所:京都ガーデンパレス
〒602-0912 京都市上京区烏丸通下長者町上ル龍前町605
 (当日会場からご案内します。徒歩15分程度)
TEL: 075-411-0111  FAX: 075-411-0403
※懇親会は事前にお申し込み下さい。会場の都合上、当日に申し出られまして受付できない場合があります。
※懇親会についてのお問い合わせを直接、ホテルにはなさらないようにお願いします。お問い合わせは、準備委員までお願いします。

 参加の申込はe-mailにて中川優(mnakagaw"あっと"mail.doshisha.ac.jp)宛に11月22日(日)までにお願いします。なお、メールに、1.ご氏名、2.ご所属、3.電話番号および4.懇親会の出欠、をお知らせ下さるようお願い致します。

ーーー
2015年第3回管理会計フォーラム実施委員会
委員長  中川優(同志社大学)
委員  青木雅明(東北大学)

2015年度 第2回フォーラム開催記

2015年11月 7日|東北大学 松田康弘

■■ 2015年7月25日、東北大学片平キャンパスにおいて行われた。鎌田宣俊氏(株式会社エスネットワークス)、内出琢也氏(税理士法人青木&パートナーズ)、長谷部光哉氏(アーセプトコンサルティング)の3名の実務家から報告が行われ、最後にパネルディスカッションが行われた。

第1報告 鎌田宣俊氏(株式会社エスネットワークス)
     「中小企業における管理会計の運用状況及び事例について」
 第1報告ではまず、破綻寸前の企業の再生について、運送業者に対するコンサルティング業務の事例等を採り上げて管理会計の役割を描いた。中小企業では、多くの場合社長ひとりで構成される経営陣は管理会計の役割や重要性を認識していない。こうした状況では、経営状態が悪化して経営を建て直す必要があるときでも、セグメント別の収益性を把握できないために事業再編がうまくいかないケースが多いことを鎌田氏は指摘した。また、中小企業の経営者は資金繰りには注目しているものの、計画策定の段階に問題があることが多いとの指摘もなされた。最後に、鎌田氏が関わった中小企業の多くで、社長がPDCAサイクルを強く意識して管理会計を理解・導入させ、また導入に強くコミットさせることが必要であったという見解が示された。

第2報告 内出琢也氏(税理士法人青木&パートナーズ)
     「中小企業のTKC管理会計ツールと活用事例」
 第2報告は中小企業の全国的な経営状態の現状についての説明から始まり、コンサルティング業務を行う際に用いる戦略財務管理ツールについての紹介がなされた。我が国の中小企業の現状は年々厳しくなっており、以前は「黒字と赤字を交互に繰り返している」企業が6割であったのに対し、平成26年度末時点では「過去10年間継続的に赤字」の企業が6割になっていまっている。これらの赤字企業を内出氏は「構造的不況型企業」と呼び、構造的不況型企業の経営改善が重要な課題であることを強調した。こうした現状を踏まえ、内出氏が中小企業に対してコンサルティング業務を行う際、財務会計の仕組みを整備させることから始め、経営者が管理会計を導入・運用するための支援を行っていることを説明した。内出氏は中小企業では日々の経理業務を徹底して行わせることを強調した。これにより従業員による不正を発見・防止に役立てることもできる。さらに、不採算事業からの撤退、限界利益率の改善、固定費の削減といった意思決定や活動を行うにあたって、中小企業の経営者の管理会計の理解が不足しているために問題が生じていることが示された。また、経営者にとって利便性の高い業績評価システムが管理会計の利用を促進することも指摘した。最後に、経営計画の策定も含めた支援業務には、コンサルティング会社のコミットメントが必要であるという指摘をした。

第3報告 長谷部光哉氏(アーセプトコンサルティング(株))
    「戦略と業務の新PDCAサイクル - 中小企業へのBSCの導入 - 」
長谷部氏はバランスト・スコアカードを用いて中小企業のコンサルティングを数多く行ってきた。長谷部氏の報告では、バランスト・スコアカードを適用する方法と問題点について説明がなされた。長谷部氏は、最近のバランスト・スコアカードの議論では戦略策定がクローズアップされている点に注目している。中小企業の経営者は、様々な活動をしている。長谷部氏は1活動にかかる時間の中央値が9分であることを指摘し、戦略の実行に際しては経営者のフォローアップをこまめにしないと事前に描いた戦略マップ通りに行かない点を強調した。次に中小企業におけるBSC導入の阻害要因について、中小企業に固有の条件を考慮して整理した。固有の条件とは、人的資本、組織資本、情報資本といったインタンジブルズの不足である。こうした状況から、中小企業ではPDCAサイクルの前段階にLearningの段階があると長谷部氏は提唱し、中小企業にBSCをより効果的に導入する方法をまとめた。

パネルディスカッション 青木雅明(東北大学)、鎌田宣俊氏、内出琢也氏、長谷部光哉氏
 青木雅明氏(東北大学)の司会でパネルディスカッションが行われた。まず、コンサルティング会社が経営支援を行うにあたって、何がキーとなるのかが議論され、報告者たちからは経営者のコミットメントの強さ、PDCAサイクルへの注目、財務状態を考慮に入れた利益計画といったポイントが示された。次に、どういった業績指標に注目すべきか、あるいは経営者が注目しやすいかが議論された。やはり中小企業では借入金返済に対する意識が非常に強く、損益分岐点分析や限2015forum2.jpg界利益概念、キャッシュフロー関連の業績評価が重要であることが議論された。根本的な問題点として、中小企業はマネジメントを事実上経営者ひとりだけが行っている場合が多く、コンサルティング会社と税理士だけが経営者に相談・指導を行うことができることが指摘された。その他様々な議論が1時間以上にわたって行われた。中小企業のコンサルティングにテーマを絞った本フォーラムのパネルディスカッションでは、問題点が明確であったため非常に活発な議論が行われた。

2015年度 第1回 フォーラム開催記

2015年7月13日|2015年第1回フォーラム実行委員会

■■ 2015年4月19日(土)、2015年度第1回フォーラムが早稲田大学において開催された。今回のフォーラムでは、昨年発刊された創設20周年記念英文学会誌の共同編集者としてご尽力頂いたElla Mae Matsumura氏(Wisconsin大学)をお迎えし、基調講演が行われた。続いて、統一論題では、『価値創造経営の管理会計』として、伊藤和憲氏(専修大学)、挽文子氏(一橋大学)、安酸建二氏(近畿大学)より報告が行われた。いずれの報告も、会場から活発な質問や建設的な意見があり、有意義な議論となった。

■■ 基調講演
Ella Mae Matsumura氏(Wisconsin大学)
 "What is good management accounting research and how do we get it done?"

 管理会計研究のトピックスと目的を提示した後、研究ジャーナルで発表するという観点から、管理会計研究に必要な要素が提示された。まず、先行研究の紹介を交えながら、管理会計研究を行うために必要な条件が述べられた。次に、実際に研究ジャーナルで発表までの手順や査読期間など、米国の事例が紹介された。そして、査読の手順を管理する視点から、提出した論文が掲載不可、再提出または掲載許可などとなった場合に分類して、それぞれの場合で、研究者が論文の掲載に向けて、論文や査読者に対して行うべきことが提案された。最後に、今後の管理会計研究のトピックスについて、新たに注目されてきたものや、未解決な問題を具体的に提示された。

■■ 統一論題
第一報告 伊藤和憲氏(専修大学)
 価値創造のメカニズムと新たな理論的モデルの提示

 まず、インタンジブルズを経営学、財務会計、業績管理、BSCの各観点から整理を行った。次に、コーポレート・レピュテーションの定義を確認した。続いて、レピュテーションと財務業績の関係に関する研究、レピュテーションの媒介変数、および永続性に関する研究を整理した。特に、永続性に関する研究において、財務業績が現在のコーポレート・レピュテーションに影響を及ぼすこと、現在のコーポレート・レピュテーションが将来の財務業績に影響を及ぼすことを確認した。さらに、Surroca et al.(2010)の研究に基づいて、好循環の理論的フレームワークを紹介した。これらの文献研究の整理を行った後、インタンジブルズと企業価値の創造を結び付ける新たなフレームワークを提示した。

第二報告 挽文子氏(一橋大学)
 価値創造とアメーバ経営 - 医療・介護組織を対象として -

 医療・介護組織における価値とは、価値創造とは何かを定義してすること。そして、アメーバ経営は、医療・介護組織の価値創造に貢献するのかというリサーチ・クエスチョンを提起した。まず、価値創造について、患者にとっての価値を高めるというポーターの提案を紹介した。次に、アメーバ経営の定義を提示して、時間当たり採算の特徴、および時間概念の導入のメリットについて説明した。そして、ポーターの提案との相違点を示し、アメーバ経営の意義を考察した。最後に、好循環を持続させるためには、経営理念とフィロソフィーが不可欠であるが、医療・介護組織はアメーバ経営と親和性が高く、管理会計は医療・介護組織などでも機能すると結論付けた。

第三報告 安酸 建二(近畿大学)
 企業価値経営・企業価値評価におけるCVP分析

 先行研究を紹介して、CVP関係に基づく収益構造の把握と利益管理は、企業価値の向上に貢献する可能性があることを示し、回帰分析により、変動費率を推定した。公表データを用いて分析した結果、短期間で変動費率と固定費が変化している可能性があることが示唆された。また、内部データを用いて分析した場合、教科書が想定するほど、CVP関係は単純ではないことが明らかとなった。そして、CVP関係の解明に向けた管理会計研究は、企業価値評価や企業価値経営に対して重要な貢献をなし得る可能性を持つことを説明した。また、変動費と固定費を再検討する動きもあり、CVP分析は重要な研究対象となりつつあると述べられた。

2014年度 第3回 フォーラム開催記

2015年2月12日|上埜 進(フォーラム実行委員長、甲南大学)

■■ 師走の第一土曜日、12月6日に日本管理会計学会2014年度第3回フォーラムを甲南大学で開催した。お忙しい時節にもかかわらず、万障繰り合わせ全国から50名強にのぼる方々にご参加頂いた。フォーラムならびに懇親会にご出席頂いた皆様方に心からのお礼を申し上げたい。ちなみに、同フォーラムは2つのセッションでもって構成し、第一セッションを「統合報告の管理会計へのインプリケーションズ」と題し、第二セッションは「管理会計・原価計算の教育をめぐる課題と対応」と題してセッションを進めた。なお、本大会記掲載の原稿は個々の報告者にご執筆頂いており、当日のスケジュールに沿って掲載している。

■■ フォーラム・スケジュール
 開会挨拶 (13:00-13:10)  上埜 進(フォーラム実行委員長、甲南大学)

第一セッション: 統合報告の管理会計へのインプリケーションズ (13:10-14:50)
 開題(15分): 統合報告の歩みと現況 
      上埜 進 (甲南大学大学院社会科学研究科)
 報告(30分): 管理会計実践にとっての統合報告の意義 
      伊藤嘉博 (早稲田大学商学学術院)
 報告(30分): 統合報告をめぐる実証研究
      -長寿企業データを用いたパイロット・テストの紹介-
      大鹿智基 (早稲田大学商学学術院)
 報告者によるDiscussions(10分)
 Q&A(15分)

第二セッション: 管理会計・原価計算の教育をめぐる課題と対応 (15:10-16:50)
 開題(10分): グローバル環境下の日本の会計・経営教育
      原田 昇 (目白大学経営学部)
 報告(20分): 専門教育へのアクティブ・ラーニングの適用可能性
      島 吉伸 (近畿大学経営学部)
 報告(20分): 一橋大学の職業人養成教育
      古賀健太郎 (一橋大学大学院国際企業戦略研究科)
 報告(20分): 実務への適合性と研究の厳格性の調和に向けて:
      神戸大学における研究者養成教育
      梶原武久 (神戸大学大学院経営学研究科)
 Discussions(10分):大島正克 (亜細亜大学経営学部)
 Q&A(20分)

■■ 第一セッション: 統合報告の管理会計へのインプリケーションズ
開題 : 統合報告とは -その歩みと現況-
 上埜進 (甲南大学大学院社会科学研究科)
 Accounting Disclosure, Investors Relations, Stakeholder Management といった脈絡でとらえられている統合報告が、どのようにして生まれ、発展し、その存在感を増し、今日、制度化に向かって進んでいるのかを私どもは理解しておきたい。また、統合報告がどのように実践されており、そのアウトプットである統合報告書がどのような様式・内容をなしているかを確認しておきたい。このことを開題で比較的丁寧に論じ、より特化した報告をされる伊藤先生と大鹿先生の前座を果たせるように心がけた。また、統合報告という開示にかかわる実務プロセスを、管理会計というパースペクティブから捉え、経営管理の改善にinternalize(内部化)することの大切さを強調した。

第一報告要旨: 管理会計実践にとっての統合報告の意義
 伊藤嘉博 (早稲田大学商学学術院)
 統合報告が管理会計研究ならびに実践に与える2つの影響に関して報告を行った。第一に、統合報告に不可避な財務情報と非財務情報との統合のためのプロトタイプモデルとしてバランストスコアカード(BSC)の貢献が期待されているが、こうした期待に応えていくためには、BSC自身にも変革が必要であると論じ、その方向性の一端を示した。また第二の影響として、統合報告の進展が予算制度の在り方にも変容をもたらす可能性に触れ、結果において脱予算経営への傾斜が促進されるという展望を示した。

第二報告要旨: 統合報告をめぐる実証研究
 -長寿企業データを用いたパイロット・テストの紹介-
 大鹿智基 (早稲田大学商学学術院)
 統合報告をめぐる実証研究について報告をおこなった。まず、先行研究を確認し、強制適用されている南アフリカに着目した研究があり、統合報告書の開示項目についてGRI3.1に準拠している企業が多いこと、しかしそれでもなお、開示情報の「統合の程度」は不十分であること、などが明らかにされていることを紹介した。また、それ以外の国において任意適用をしている企業の特徴に関する実証分析を紹介した。
 その上で、今後、統合報告そのものの有用性について株式市場の反応を観察する研究や、具体的な開示項目を検討するための実証研究が必要になることを指摘した。さらに、パイロット・テストとして報告者らがおこなった、長寿企業に着目した実証分析を紹介した。長寿企業は、統合報告の目指す「サステナビリティ」を達成した企業である。分析結果は、長寿企業において、株主以外のステークホルダー(従業員、債権者、国)に対する価値分配が大きいこと、その前提として収益性が高く安定していることなどを明らかにしている。

報告者によるDiscussion、およびQ&A
 Discussionの冒頭、伊藤嘉博先生と大鹿智基先生が、相手の報告の中で関心をひいた事項に焦点を当て、さらに敷衍するように求められた。その後のQ&Aでは、会場の2名の先生からご質問があった。統合報告が管理会計研究者のコンベンショナル・ウィズダムになっていないこともあり、いずれの質問者も、統合報告が財務会計、管理会計といかなる位置関係にあるのかに関心を寄せられていた。

■■第二セッション: 管理会計・原価計算の教育をめぐる課題と対応
開題: グローバル環境下の日本の会計・経営教育
 原田 昇 (目白大学経営学部)
 「管理会計・原価計算の教育をめぐる課題と対応」という統一論題のもとで、グローバルに対応して質的転換をなして世界に通用する会計・経営教育に係る論点を開題として提起した。
 まず第1の論点は「会計教育の内容」については、Relevance Lostの観点から会計教育の実務からの乖離をどう解決するか、実践科学であることから会計や経営の普遍的な原理と原則をどう教育するか、さらにそれらの関係をどう合理的に解決するかなどにある。また第2の論点は「会計教育の方法」に関して、「主体的に学ぶ力」(学士力)を養成する教育方法の1つとしてアクティブ・ラーニングを検討することにある。第3の論点は「会計教育の目的や対象」について、研究者、専門職、会計マインドをもった管理者、会計経営教育者などの養成目的に応じてそれぞれの会計教育に必要な知識の体系を明らかにすることにある。
 これらの論点を踏まえると、大学における教育の原点はグローバル化に対応する「研究に基づく教育」にあり、会計・経営教員や大学院生に研究とディスカッションの場を提供し、学問の現状(state of the art)を知らせ相互に切磋琢磨できる「セミナー」や「ワークショップ」が極めて重要な位置を占めることを主張した。

第一報告: 専門教育へのアクティブ・ラーニングの適用可能性
 島 吉伸 (近畿大学経営学部)
 管理会計は実務から生成し、実践を通じ発展してきたマネジメント手法である。その性質上、教科書の解説だけではなく、ケースを通じて実務における管理会計の活用方法を学ぶことが効果的である。しかし、実務経験や知識の乏しい初学者にとって、ケースから管理会計手法を理解することはやはり難しい。そこで本報告では、現在様々な教育領域で注目されているアクティブ・ラーニングをとりあげ、学生に対して専門教育への興味を抱かせ、主体的・能動的に学習させる仕組みとして、会計領域において既に実践されているアクティブ・ラーニングを活用した教育手法を紹介した。最後に、私がこれまで実践してきた「折り鶴」から学ぶコスト・マネジメント教育の概要とその教育効果について報告した。

第二報告要旨: 一橋大学の職業人養成教育
 古賀健太郎 (一橋大学大学院国際企業戦略研究科)
 一橋大学大学院国際企業戦略研究科の国際経営戦略(International Business Strategy、 IBS)コースについて報告した。60名ほどの学生の平均像は30才、就労経験7.5年、7割が海外留学生で、職を離れて学業に専念する。一般に、経営全般を志向し、会計のような特定の分野への興味は薄い。また、卒業後の就職が最大の関心事である。こうした学生の志向に応えるため、IBSでは科目を統合する学習の機会を作り、実務家と協働する教育に力を入れている。Deep Dive Dayでは学生がローソンの店舗を観察して、新しい業態を、同社の経営幹部の前で提案する。

第三報告要旨: 実務への適合性と研究の厳格性の調和に向けて:
 神戸大学における研究者養成教育
 梶原武久 (神戸大学大学院経営学研究科)
 神戸大学大学院経営学研究科における管理会計研究者養成教育に関する最近の取り組みについて報告を行った。まず、「管理会計の適合性喪失」の認識のもと、日本企業の革新的管理会計実務の解明を主目的として展開されてきた従来型の管理会計研究者養成プログラムの問題点として、社会科学の基礎理論の軽視、研究の厳格性の欠如、研究者による特定の手法への偏った関心などの点を指摘した。次に、上記の問題点の解決を目指して、神戸大学が近年行っている研究者養成の取り組みをいくつか紹介した。近年の取り組みの成果として、基礎理論としての経済学の学習や研究方法の体系的な習得の面で改善がみられる一方で、心理学や社会学の体系的な教育の困難であることや、理論を重視した結果として学生の実務への関心が低下しており、「実務への適合性」と「研究の厳格性」のバランスを図ることが困難であることなどの課題があることを指摘した。最後に、管理会計研究者の養成に向けて、特定の大学を超えた、学会レベルでの取り組みが必要であることを主張した。

Discussions:大島正克 (亜細亜大学経営学部)
 4名の各先生からのご報告に対して、以下のような点を中心に討論した。開題の原田昇先生には、「管理会計・原価計算の教育に関するテーマは、これまでも多く論じられてきましたが、再度今回、当フォーラムで取り上げる意味について、グローバル化を強調されています。グローバル化に関しても以前もありましたが、今回は特にどのような点に着目されたのでしょうか。」第一報告の島吉伸先生には、学部学生の専門教育について「アクティブ・ラーニングの有効性を向上させるためには事前的な知識の付け方が重要といわれていますが、その点はどのようにしておられるのでしょうか。」第二報告の古賀健太郎先生には、専門職大学院における職業人養成教育において「アメリカのビジネス・スクールでは入学すると直ちに会計を学び、その上で経営戦略などを学ぶのが一般的であるのに日本のMBAでは、そこまで会計を重視していないのはなぜでしょうか。また最近のアメリカ文献では、管理会計担当者の地位が単に意思決定者に対して有用な情報提供のみならず意思決定者の一員となっていますが、実際はどうなのでしょうか。」第三報告の梶原武久先生には、大学院における研究者養成教育おいて「管理会計を研究したいという院生は増えているのでしょうか。教える側も学部、MBA、Ph.D.の両立が難しく、私立ではそれが一層難しい現状において、質の保証からみて我々が取り組まねばならない問題で重要なものは何でしょうか。」などをDiscussionsした。

■■ 懇親会
 フォーラム終了後に甲南大学生協のレストラン、 Favorite Hallで懇親会を催した。気温が上がらず、大変に寒い日であったが、東北、九州、関東の先生方なども残って下さり、30名あまりで懇親会をスタートできた。挨拶、乾杯のあと、多少のアルコールも入り、話題が大いに盛り上がり、賑やか、かつ和やかな雰囲気の中に会を終えた。ご出席頂いた方々に、改めてお礼を申し上げたい。

2014年度 第2回 フォーラム開催記

2014年12月 2日|フォーラム実行委員会委員長  細海昌一郎(首都大学東京)

■■ 日本管理会計学会2014年度第2回フォーラムが、2014年7月26日(土曜日)に首都大学東京南大沢キャンパス国際交流会館において開催された。細海昌一郎氏(首都大学東京)の司会のもと、濱村純平氏(神戸大学大学院博士後期課程)、山本宗一郎氏(首都大学東京大学院博士後期課程)、伊藤武志氏(株式会社価値共創)、奥村雅史氏(早稲田大学商学学術院)の各氏から報告が行われた。いずれの報告もフロアから活発な質問や意見があり、有意義な議論がなされた。その後、国際交流会館内のレストランに場所を移して懇親会が行われ、盛況のうちに散会となった。各氏の報告の概要は以下のとおりである。

■■ 第一報告 濱村純平氏(神戸大学大学院博士後期課程)
    論題:Subsidiary management using multinational transfer pricing

 最初に、国際移転価格に関する先行研究を紹介した上で、この研究領域に関する課題を挙げて本研究の発展的意義を述べている。本研究では、特に、生産ラインが重なっている場合に市場で競争を行う企業がどのような国際移転価格を選択し、それ通じて在外子会社の戦略をコントロールするかについて、モデル分析を行っている。本研究では、最適反応関数を得るようなモデルを採用しているが、バックワードインダクションという手法を用いて、第3段階から遡ってモデル分析を行い、第1 段階の両企業の意思決定について考察している。モデル分析の結果、まず、海外市場を同時手番にした場合に非対称均衡が存在し、異なる国際移転価格、数量を選択するという命題が得られたと報告している。また、国内市場と海外市場で競争を行っている企業が混雑コストを考慮すると、両社が棲み分けを狙うような国際移転価格をつけ在外子会社の戦略を間接的にコントロールすることが示された。すなわち、企業が市場で数量競争を行っている際に、国内市場と海外市場で棲み分けを狙うような国際移転価格をつけ、在外子会社をコントロールすることが示された。 今後の研究課題として、逐次手番の分析と税金も考慮した分析を行うとしている。

■■ 第二報告 山本宗一郎氏(首都大学東京大学院博士後期課程)
    論題:国際比較による会計情報の価値関連性に関する研究

 国際的なIFRS導入の流れに従って、わが国でも包括利益が採用されたが、本研究は、包括利益と純利益の価値関連性について研究を行っている。最初に、価値関連性に関する先行研究を紹介した上で、本研究では、先行研究を発展させ、時系列データを用いたパネルデータ分析を行っている点、北米、ヨーロッパ、オセアニア、日本、アジアにおける上場企業の国際比較を行っている点が特徴であることが示された。パネルデータ分析の結果、純利益と包括利益の説明力は、北米、ヨーロッパ、オセアニア、日本、アジアの各地域で有意な結果を示している。国際比較の結果、仮説の通り、欧米では包括利益の方が説明力が高くなった。また、日本においては、純利益の方が説明力が高かったが、Wald検定を用いたBSS testの結果、純利益と包括利益のBSS統計量の値との間に大きな差異は見られなかった。加えて、日本では「その他包括利益」に関する増分情報が、有意な結果であったことが示された。本研究の分析結果は、包括利益の一本化が叫ばれる中で、包括利益の有用性だけでなく、純利益の有用性も示しており、国際的な流れに一つの疑問を投げかけることになると主張した。

■■ 第三報告 伊藤武志氏(株式会社価値共創)
    論題:顧客価値ベースの人間尊重経営の実現に向けて

 最初に、伊藤氏は、顧客に対して価値があることとは何かを問いかけた。それに関連して、定量的・定性的な組織目標を組み込むことで、顧客価値を伴った財務価値を生み出すことが重要であると指摘した。その上で、ビジョン・戦略としての顧客価値として、顧客価値の雛形、戦略キャンバスによる価値曲線を図示し、視覚化することを提案している。また、顧客価値が作られる体験のストーリーにより、具体的な顧客に価値が生まれるシーンを疑似体験することによって、顧客価値の創造を理解し改善しやすくなるとしている。さらに、定性的表現を伴う相対的目標を設定することにより、達成したい重要な内容を表現でき、目標が明確化することで、環境変化への対応、戦略的な優位性を示せるとしている。顧客価値のビジョンは、具体的な顧客価値とその裏づけを作ることであり、もし素晴らしい顧客価値のビジョンができれば、財務的な成功と人間を尊重できる経営を維持できる裏付けとなるとしている。以上から、継続的に向上しつづける顧客価値を創造し提供することが、企業の組織成員にとって自信となり、誇りとなり、モチベーションとなる。これが企業におけるより高次の顧客価値ベースの人間尊重経営の実現の姿となると結論付けた。今後の研究課題として、具体的な実証研究による企業事例研究、アクションリサーチによる研究の必要性を挙げている。

■■ 第四報告 奥村雅史氏(早稲田大学商学学術院)
    論題:利益情報の訂正と会計情報の信頼性

  本研究は、わが国における利益情報の訂正実態と株式市場に対する利益訂正情報の影響ついて報告している。まず、利益情報の訂正実態については、経常的な企業業績に関連する訂正が多いことを指摘している。次に、利益訂正企業の株価反応に関する分析では、利益訂正額が大きく、訂正対象の範囲が広いほど、株価へのマイナスの反応が大きいこと、意図的な虚偽記載、証券取引等委員会の指摘による場合、マイナスの反応を示すことを明らかにした。また、利益訂正の情報移転分析では、利益の質は運転資本発生項目額が大きいほど伝播効果が強く、投資発生項目額が大きいほど伝播効果が弱いこと、その他、新興市場の場合は伝播効果が強いこと等を明らかにした。最後に、原因別分析では、意図的な虚偽表示であったかによって、結果が大きく異なっていると報告している。特に、意図的な虚偽表示のケースでは、それを原因とした利益訂正が会計情報の信頼性へ影響を与えており、市場が意図的な虚偽記載の発生可能性を評価しているのではないかと述べている。以上から、(1)情報移転は、競争効果ではなく伝播効果が支配的である。(2)利益の質が低い(会計利益とキャッシュフローの差が大きい)場合、市場による利益計上のプレッシャーが強い場合、新興市場の上場企業である場合、競合企業における株価への伝播効果が強い。(3)伝播効果は、主に、意図的な虚偽記載を原因とする利益訂正において生じると結論付けた。

2014年度 第1回 フォーラム開催記

2014年7月29日||辻 正雄(早稲田大学)

■■ 日本管理会計学会2014年度第1回フォーラムが2014年4月26日土曜日に早稲田大学西早稲田キャンパスにおいて開催された。今回のフォーラムでは『日本企業における企業価値創造経営』というテーマで研究報告が行われた。辻正雄氏(早稲田大学)司会のもと、第1部では佐藤克宏氏(McKinsey&Companyプリンシパル)、花村信也(みずほ証券執行役員)、柳良平(エーザイ執行役員)の3組が講演され、第2部では淺田孝幸氏(立命館大学)をディスカッサントに佐藤克宏氏、花村信也氏、柳良平氏の3名によるディスカッションが行われた。いずれの報告およびディスカッションもフロアから活発な質問や意見があり、有意義な議論がなされた。その後、場所を移して懇親会が行われ、散会となった。各先生方の報告の概要は以下のとおりである。

■■ 第一報告 佐藤克宏
  「企業価値創造の理論と経営における実践の融合
   ー企業オペレーションとM&Aにおける最近のトピックを中心にー」2014forum1-1.JPG
 
 佐藤氏は企業価値がROICとキャッシュフロー成長率のバランスにより異なることを示された。そして、ROICと売上高成長率の傾向を観察し、売上高成長率に比べてROICの方が長期にわたり持続性がみられることを指摘された。このことから、企業経営の現場でも企業のオペレーションによる企業価値向上が重要であることを示された。次に佐藤氏は、M&Aによる企業価値創造について論ぜられた。M&Aによる買収価格は、理論的には、将来創造されると考えられる価値を売り手と買い手に分けた後、その売り手側の取り分に現状の延長線上の企業価値を加えたものである。そのため、買収を通じて企業価値を創造する場合、業績改善を通じた被買収企業側の大幅な価値向上が必須となる。しかし、そもそも日経企業は、M&A検討段階からの詰めが甘いことにより、買収後のマネジメントよりも以前に、買収価格の「払いすぎ」という落とし穴に陥っていると指摘された。

■■ 第二報告 柳 良平
  「企業と市場のダイコトミー緩和に向けた処方箋の理論と実践
   ー「企業価値評価」にフォーカスしたアプローチー」2014forum1-1.JPG
 柳氏は、日本の株式市場の長期低迷の原因は企業と投資家との間のダイコトミーにあると指摘し、日本企業の長期株主価値向上への指針を提示された。柳氏は、日本の株式市場の長期低迷は、世界的にみても低いROEに加え、ガバナンスの不備やディスクロージャーの質・量を原因とした資本コストに起因していると述べられた。そして、これらの本質的な原因には、日本企業の経営者と投資家との間の意識の違いがあり、日本の経営者が安定配当思考なのに対して、投資家は資本効率を重視していると指摘された。柳氏は、この解決策として、エーザイを例に長期的な企業価値創造の財務戦略を述べられた。同社はROE経営を前提に配当政策を立案し、積極的な戦略投資にVCIC(Value-Creative Investment Criteria)を導入することで常に株主価値創造を担保した企業運営を行っている。柳氏は長期的株主価値の向上のためには、VCICのような株主価値を担保する基準による積極的な戦略投資が重要であると述べられた。

■■ 第三報告 花村信也
  「M&Aによる企業価値創造とのれんの償却問題」
 日本の会計基準では、のれんは20年以内で均等償却さ2014forum1-1.JPGれる。一方、IFRSや米国会計基準では、のれんは償却されないこととなっている。そのため、日本基準の下でのれんを償却した場合にM&Aの効果が減少することもあり、日本企業の経営者にとってはIFRSを採用した方が大型M&Aに踏み切りやすい。花村氏は、のれんの会計規則がM&A促進に資するかという問題意識のもと、理論と実証の先行研究を概括し、それらの先行研究に実務の視点から検討を加えられた。花村氏はのれんの処理に関する多くの先行研究を概括されたが、ここでは特にのれんの減損による報告利益管理について取り上げる。IFRS3号では減損テストの単位が資金生成単位であり、それが事業セグメント以下の単位であることが規定されている。実務の立場からは、資金生成単位を増減させることで減損処理の実行もしくは回避することは十分考えられる。減損による報告利益管理の研究は解明の余地が残されている。

2013年度 第3回フォーラム&第41回九州部会 開催記

2013年12月 3日|加藤典生(大分大学)

2013forum_1.jpg■■ 日本管理会計学会2013年度第3回フォーラムが,第41回九州部会と兼ねて2013年11月16日土曜日に大分大学旦野原キャンパスにおいて開催された。今回のフォーラムでは,『大分・別府,九州から地域経済・地域産業の将来を考える』というテーマで,大分・別府,九州の地域産業に焦点を当てた企業講演と研究報告が行われた。大会準備委員長である大崎美泉氏(大分大学)の開会の挨拶があり,第1部では加藤典生(大分大学)の司会のもと,高橋幹氏(南九州税理士会大分県連合会副会長),桑野和泉氏(由布院玉の湯代表取締役社長)の2組が講演され,第2部では大下丈平氏(九州大学)の司会のもと,魚井和樹氏(ダイハツ九州株式会社取締役相談役),宮地晃輔氏(長崎県立大学)の2組から企業講演,研究報告が行われた。いずれの講演および報告もフロアから活発な質問や意見があり,有意義な議論がなされた。その後,場所を移して懇親会が行われ,散会となった。

■■ 第1報告:高橋 幹氏(南九州税理士会大分県連合会副会長)

「顧問先の経営成績から大分の景気動向をさぐる」

2013forum_3.jpg 高橋氏は,顧問先の法人データをもとに業種別に区分して経営分析を行い,その結果から大分県の企業の現状と課題を提示された。同分析結果から,法人税額が前年度比で見た場合,およそ半分が増えている一方で,残りの半分が減少傾向にあることが明らかとなり,これを受けて,大分では,良い会社とそうでない会社が明確になってきており,2極化してきていることが指摘された。また,同分析結果から,大分の土地という点でも,オリンピックの東京開催決定やアベノミクス効果の影響が入ってきていると判断され,具体的には建設業,不動産業,とりわけリフォームがそうした影響を受けていると述べられた。今後の課題として,消費税率の引き上げの問題,納税資産の問題,相続税の問題が今後の大分の中小企業にとってかなり厳しい対応が必要になってくると主張された。

■■ 第2報告:桑野和泉氏(由布院玉の湯代表取締役社長)

「由布院の観光・まちづくり」

2013forum_4.jpg 桑野氏は,まず大分県が大分駅を中心にしたまちづくりが行われていることを伝えた後に,日本の「観光」が世界的に見て遅れていることを指摘し,日本製品の販売を含めて海外の方々が日本に来てもらうことが大事であり,オリンピックが日本で開催されることが決まった今日にあって,今こそ日本の持っている力を最大限発揮するべきであると主張された。人口減少社会が我々の想定以上の速さで進む中,定住人口が望めなければ交流人口を向上させていく必要があるとされ,各業種の経済効果を期待できる観光の重要性が指摘され,由布院の観光の取組が紹介された。由布院では,調和をモットーに,宿泊施設の価格帯に幅を持たせることで,競争ではなく共存関係を築けていること,女性のリピーターの方が多いこと,温泉街を作らず小規模な温泉地を意識していること,馬車が通ることでゆっくりな町であることをアピールしていること,世代交代を早めることで自らの判断に責任を持ってもらうにようにしていることなどの取組が示された。また,数字から見えない観光は議論できないとし,会計数値の重要性も指摘された。

■■第3報告:魚井和樹氏(ダイハツ九州株式会社取締役相談役)

「ダイハツ九州のめざすところ」

2013forum_6.jpg 魚井氏は,グローバル化に着目しながら,ダイハツ九州の今後の方向性について報告された。同社では,世界一のスモールカーを目指すために,軽自動車に相応しい自動化,設備のシンプル化に力を入れ,工場設置に対する工期短縮に取り組まれていることが説明された。海外との競争において,販売価格を上げることが困難な状況では原価低減活動が重要であり,そのために現地(大分・九州地域)調達率の向上を目指すとともに,原単位を下げていくこと,スピード力,一人で何でもできる能力,診える化が必要であることが主張された。時間とお金がかかっていてはグローバル化の時代に海外で勝負にならないことが繰り返し指摘された。

■■第4報告:宮地晃輔氏(長崎県立大学)

「A社造船所における新造船事業の採算性改善のための方策(2)」

2013forum_7.jpg 宮地氏は,リーマンショック以降,船会社の需要低下を原因とした「極端な買い手市場」による造船市場の競争激化の状況のもとで,造船準大手のA社造船所で取組が本格化した原価企画の現状と問題点を報告し,それを踏まえて採算性改善の方策について提示された。ここでは,A社が原価企画からの効果を当初期待した通りには得られていないこと,また,これまでの地元の協力先企業との関係で新たなサプライヤー(特に海外)を参入させることが困難であるといった,保守的なサプライヤーの存在が採算性の改善を阻害していることが,新造船事業の採算性改善のための課題であったことを指摘し,同社や協力先企業も新規参入への抵抗が強いことから,保守的なサプライチェーンを前提とした採算性改善の方策として,これまで不足していた両者の協力関係を強化していくことが提示された。

2013年度 第2回 フォーラム開催記

2013年8月15日|梅津亮子(法政大学)

2013forum2_1.JPG■■ 日本管理会計学会2013年度第2回フォーラムが,2013年7月13日土曜日に法政大学市ヶ谷キャンパスにおいて開催された。今回のフォーラムでは、統一論題の設定をしないで、すべて自由論題にてご報告いただく形式を採った。大会準備委員会委員長である福多裕志先生(法政大学)の開会の挨拶の後、福田淳児先生(法政大学)の総合司会の下で約3時間にわたって4名の先生方による意欲的な研究報告が行われ、活発な議論が展開された。その後、法政大学富士見坂校舎地下1階「カフェテリア」において、懇親会が開催された。各先生方の報告の概要は以下のとおりである。

■■ 第1報告(自由論題報告) 司会者:藤崎晴彦氏(横浜市立大学)
 報告者:尻無濱芳崇氏(一橋大学大学院)

「介護事業における組織の公益志向と業績測定尺度の利用」

2013forum2_2.JPG 介護事業において、組織の公益志向(利益最大化以外の目的をもつ)が高い場合、それらが業績評価にどのように影響しているのかについて、千葉県で介護施設を運営する法人を対象とした調査の結果が報告された。報告では2つの仮説が示され、アンケート調査に基づく分析と考察が示された。第1の仮説は、組織の公益志向が強いほど使命達成測定尺度(利益以外の業績測定尺度)の利用度が高まるというものであり、これについては一部の使命達成尺度に対してしか影響は見られず、その影響も限定的であることが明らかにされた。また、規範的に示されてきた一般的見解とは差異が認められることも指摘された。第2の仮説は、組織の公益志向が高いほど、財務的業績尺度の重視度が低下するというものであった。これについては、先行研究と同様に公益志向が高いほど会計的コントロールを軽視していることが裏付けられた。

■■ 第2報告(自由論題報告) 司会者:藤崎晴彦氏(横浜市立大学)
 報告者:青木章通氏(専修大学)

「ホテル業における収益管理-レベニューマネジメントに関する実証研究-」

2013forum2_3.JPG まず、レベニューマネジメントの定義および成果尺度について説明があり、本研究は、キャパシティに制約があるサービス産業を前提としていること、短期的な収益最大化を目的とした管理手法であること、そのため経営構造の変革を前提としていないこと、コストには言及しないことなどが示された。次に、ホテル業を対象として、どのような事業環境および収益管理の下であれば、レベニューマネジメントの短期的な財務尺度(成果尺度)を向上させることに繋がるのかについて検討がなされた。報告では、事業環境、収益管理に関する変数について因子分析、信頼性分析が示され、因子得点を説明変数とし、短期的な財務尺度および顧客関連尺度を被説明変数とした多重回帰分析が行われた。その結果、繁忙期と閑散期では財務尺度の向上に繋がる要因が異なることが明らかにされた。また、顧客関連尺度については、特にレベニューマネジメント導入環境の整備状況、販売価格コントロールの程度から影響を受けることが指摘された。

■■ 第3報告(自由論題報告) 司会者:森光高大氏(日本経済大学)
 報告者:近藤大輔氏(法政大学大学院)

「アメーバ経営の導入研究」

2013forum2_4.JPG サービス業においてアメーバ経営がどのように導入され機能しているのか、レストラン運営会社の事例を例にとって報告された。まず、製造業で生成・発展してきたアメーバ経営とはいかなるものか、その特徴である時間当り採算およびフィロソフィーの概念について先行研究を取り上げながら詳細な説明がなされた。時間当り採算は、会計的な利益意識を強く持たせる役割があるが、一方で部分最適に陥る危険性があるので、その欠点を補う形でフィロソフィーを浸透させていくと適切な形でアメーバ経営が機能することが説明された。報告では、レストランを運営している「株式会社ぶどうの木」におけるアメーバ経営の事例が紹介され、時間当り採算とフィロソフィーのパッケージが、当該レストランにおけるフロントラインの高効率および高効果を両立させるよう機能していることが示された。

■■ 第4報告(自由論題報告)  司会者:森光高大氏(日本経済大学)
 報告者:妹尾剛好氏(和歌山大学)・横田絵理氏(慶應義塾大学)

「機能別組織における戦略的業績評価システムの考察」

2013forum2_5.JPG 戦略的業績評価システムは機能部門において効果的であるのか、それはキャプランとノートンが主張するバランスト・スコアカードの仕組みと同じであるのか、という研究課題について、文献レビュー及び事例研究の経過が報告された。文献レビューでは、一般的なバランスト・スコアカードの仕組みについて解説がなされた後、とくにマーケティング部門で行われている戦略的業績評価システムの概要について検討がなされた。次に事例研究では、現在、報告者が進めているバランスト・スコアカードに関する調査の途中経過について説明があった。これらの考察に基づいて、1. 機能部門では、因果関係を伝達する仕組みとして戦略マップは効果的ではないのではないか、また、2. 機能部門では、相対評価で報酬とリンクしている戦略的業績評価システムが効果的であるのではないか、という2つの新たな仮説が提示された。

2013年度 第1回 フォーラム開催記

2013年6月28日|斎藤孝一(実行委員長 南山大学)

■■ 日本管理会計学会2013年度第1回フォーラムが,2013年4月13日(土)に南山大学において開催された。園田智昭氏(フォーラム担当副会長,慶應義塾大学)の開会の挨拶に続いて,第1部の研究報告が開始された。研究報告の部では,星野優太氏(名古屋市立大学)の司会のもと,孫美レイ(流通科学大学),木村史彦氏(東北大学),川野克典氏(日本大学)による報告が行われ,活発な議論が展開された。第2部の企業講演は,吉澤和秀氏(中京テレビ放送 常勤監査役)によって「テレビ局の経営と管理」というタイトルで講演が行われた。その後,会場を移して懇親会が行われた。

■■ 第1報告:孫美レイ氏(流通科学大学) 

「内部統制制度の導入効果に関する一考察 -4社の事例-」

2013forum1_1.jpg 孫氏の報告は,アメリカの不正会計に端を発する内部統制という経済制度がアジアの経済的文脈のなかでどのような効果を果たしているのかについての日本企業を対象とした分析の報告であった。
 孫氏は,企業へのインタビューによる質的研究方法を用いて内部統制制度の効果を明らかにしている。4社をインタビューし,当該企業において内部統制制度の効果が現れるとすればどこで効果が現れているのか,また効果が現れないのであれが問題の所在はどこにあるのかなどについて企業別に検討した。
 孫氏は,インタビュー調査の結果について,次のようにまとめられた。A社は内部統制制度による不正防止の効果に対して懐疑的であるが,業務の有効性や効率性の向上効果に対しては肯定的な見解を持っている。B社は内部統制制度の導入に課題に感じており,制度対応に加えて自社独自の方法も取り入れながら不正の防止や業務効率の向上を図っている。C社は内部統制制度の導入前から業務のオペレーションが成熟化し,業務の効率性も高く,内部統制制度による業務効率性のさらなる向上は達成できていない。また不正防止の効果に対して懐疑的である。D社は内部統制制度による業務の効率性の向上に肯定的である。

■■ 第2報告:木村史彦氏(東北大学)

「利益マネジメントの業績間比較」

2013forum1_2.jpg 木村氏の報告は,日本の上場会社における業種ごとの利益マネジメントの傾向と,業種間の差異に影響する要因を明らかにしようとするものであった。研究方法は以下のとおりである。まず,各業種の利益マネジメントの傾向を国際比較研究の手法の方法を援用して定量化し業種間で比較する。その上で,業種ごとの利益マネジメントの水準に影響を及ぼす要因として,(1) 政治コスト,(2) 資金調達方法,(3) 投資機会集合,(4) 会計上のフレキシキビリティ,(5) 業種内の競争性,を取り上げ,業種ごとの利益マネジメントの水準との関係を分析する。分析対象は,2004年から2011年までの日本企業25,208社であった。
 木村氏は,分析結果について次のようにまとめられた。業種間で利益マネジメントの水準に顕著な差異が見られる。さらに,政治コストが大きい,負債による資金調達のウエイトが高い業種では,利益マネジメントが実施される可能性が高い。また,この結果は,異なる業種分類を用いた場合でも頑健であった。

■■ 第3報告:川野克典氏(日本大学)

「進化を止めた日本企業の管理会計」

2013forum1_3.jpg 川野氏の報告は,2011から2012年に東京証券取引所上場会社に対して実施したアンケート調査(回答数は190社,回収率9.3%)にもとづいて行われた。
 川野氏は,この調査結果を次のようにまとめられた。日本企業は,全体として極めて保守的であり,新しく提案された管理会計手法の採用には消極的である。一方で,外部からの圧力,すなわち,法律の改正や会計基準の公表等があると,日本企業はこれに対応すべく管理会計制度の見直しを行う。国際会計基準の日本への導入については,適用時期,範囲等,見通しがつかない状況が続いている。その結果,日本基準ベースの管理会計を構築すべきか,国際会計基準に対応した管理会計を構築すべきかの判断ができなくなってしまい,管理会計の見直しを進めようとする意志のある企業でも,見直しに着手すらできず,これらの結果,日本企業の管理会計の進化が止まってしまっている。
 また,今後の日本企業の管理会計に求められるものとして,統合報告(Integrated Reporting)に学び,経営成績と財政状態の向上の最終結果(アウトカム)としての企業価値向上に結び付く,ストーリー化された統合的な管理会計体系の構築を指摘した。

■■ 企業講演:吉澤和秀氏(中京テレビ放送 常勤監査役) 

「テレビ局の経営と管理」

2013forum1_4.jpg 吉澤氏の講演は,「経営と管理」の観点から,テレビ局の経営状況の推移とCSRの2点に絞って行われた。テレビ局の経営状況については,以下のように述べられた。テレビ業界は創業以来,日本経済の発展に伴って成長し放送事業の多様化を進めてきた。日本国内のメディアを広告費で見ると,2012年1年間の広告費は,およそ5兆9000億円で,その内マスコミ4媒体と言われるテレビ・新聞・雑誌・ラジオが47%,テレビは30%を占めている。テレビ業界は,創業以来日本経済の発展に伴って成長してきたが,WEBなどメディアの多様化の影響から売上は2006年度をピークに減少傾向に入り,リーマンショックの翌年は,ピーク時の87%まで落ち込んだ。長いトレンドで見れば漸減傾向を覚悟しなければならず,各局は,映画やDVD,アイスショーなど,放送を活用した事業収入の創出を工夫している。
 CSRについては,テレビ局の経営にとって最も重要なのは放送倫理であるとして,次のように説明された。放送は,人の命や健康あるいは人権に係わる情報を取り扱い視聴者に届けているので,その情報が万一,誤っていたり,放送したことが何らかの被害を招く結果とならないよう放送に当たっては,番組制作の現場で2重3重のチェックをしている。また,放送倫理を専門とする部署でスクリーニングし,且つ放送法で定められた外部有識者による番組審議会で定期的に評価されている。放送倫理に関する規定集やマニュアルは各種整備・更新しているが,何と言っても日々の放送活動の中でスタッフが高い意識を持って業務に当たることが肝心で,スタッフへの放送倫理研修は頻繁に実施している。放送倫理の遵守はテレビ局のCSRの基本と言える。
 最後に,BCPにふれ,次のように結ばれた。放送局は南海トラフを震源域とする巨大地震をはじめとした非常時に視聴者に情報を伝える放送機能の継続が最重要であることからBCP-B(Business Continuity Plan of Broadcasting)の概念を基本として,放送のための要員・設備の他,電力供給が停止した場合の非常用発電などの体制を整えるとともに,非常時を想定した訓練を行うなど社会的使命を果たすべく取り組んでいる。

2012年度 第3回 フォーラム開催記

2013年2月 8日|竹迫秀俊(城西国際大学大学院)

2012forum3_1.jpg■■ 日本管理会計学会2012年度第3回フォーラムは,玉川大学を会場として,2012年12月8日(土)に開催された(実行委員長:山田義照氏)。今回のフォーラムのテーマは「ものづくりの管理会計の再考」とされ,日本のものづくりと管理会計の関係に焦点を当てた研究報告と企業講演が行われた。参加者は70名を超え,熱のこもった議論が繰り広げられた。第1部の研究報告では,園田智昭氏(慶応義塾大学)の司会のもと,原慎之介(一橋大学大学院),田坂公氏(久留米大学),中嶌道靖氏・木村麻子氏(関西大学)の3組が報告された。第2部の企業講演では,司会を伊藤和憲氏(専修大学)にバトンタッチし,織田芳一氏(富士ゼロックス株式会社 調達本部原価管理部)が講演された。その後,場所を移して懇親会が行われ,1年間の学会活動を振り返りながら,今回のフォーラムを惜しみつつ散会となった。

■■ 第1報告:原 慎之介氏

「Jコストによる現場改善効果の測定-資金効率の視点から-」

2012forum3_2.jpg 原氏は,既存の会計理論は原価低減に偏重していて,在庫低減やリードタイム短縮活動の評価に必ずしも結びついていないと主張され,Jコストを現場に導入することの意義について述べられた。Jコスト論は,トヨタ生産方式を会計的に評価することを目的として,田中正知氏(ものつくり大学名誉教授)によって提唱されたものである。現場のリードタイムを短縮する効果を財務的数値とリンクさせることを目的として作られた理論であるという。
氏は,Jコスト論の「現場の問題を顕在化する」側面と「現場の改善効果を評価する」側面に焦点を当て,管理会計技法としてのJコスト論の役割を明確化された。その上で,利益尺度としてのJコスト,資金尺度としてのJコストについて述べられ,どのようにJコストを現場に活かせばよいのかをシミュレーションベースで説明された。
 Jコストの計算方法は,コストと時間の積で表される面積(縦軸にコスト,横軸に時間)であり,その本質は資金量である。縦軸を短くする改善が原価低減であるのに対し,横軸を短くする改善がリードタイム短縮で,これらの積を用いた理論がJコスト論である。またJコストの総和は製品1単位を作るために要した棚卸資産にも相当するという。
 また,Jコスト論の特徴として,原価のみならずリードタイムや資金の利用量も測定できるものであることを強調された。特に資金面だけに影響を与える改善について評価できるということ,つまり,既存の会計理論では,利益に結びつかない要素を正しく評価しにくいため,Jコスト論によって評価することが重要であるという。
 最後に,会計技法は利益に基づいた評価がなされるため,現場の改善活動が正当に評価されていないという問題点を指摘された。その上で,田中氏が主張されている利益尺度としての利用方法と原氏が今回の報告で述べられた資金尺度としての利用方法を用いてJコスト論を利用することにより,これらの問題の解決が図られると結論を述べられた。

■■ 第2報告:田坂公氏

「グローバル型企業における原価企画の展開と課題」


2012forum3_3.jpg 田坂氏は,円高の問題を始めとする厳しい企業環境の変化のなかで,日本の企業が国内から海外へ出て行ってしまっているという現状を憂え,原価企画がどのようにグローバル企業に対応してきているのかについて報告された。報告では,原価企画の先駆的企業である自動車部品メーカーA社に対する調査を一つの事例として,特に新興国向けにどのような原価企画が展開されているのかについて述べられた。
 最初に,世界の自動車販売の現状について次のように紹介された。日本自動車工業会による世界の自動車販売数のデータを,氏が先進国向け販売数と新興国向け販売数に分けたところ,先進国向けは横ばいあるいは減少しているのに対し,新興国向けはこの10年間で約3倍となっており,情勢が大きく変わっているという。また,日本政策投資銀行の資料より,先進国市場における原価企画の対象車は低燃費車,環境技術を駆使した製品が中心となっており,品質とコストがしっかりと検討されながら開発されていることが分かる。一方,新興国市場は,モータリゼーション以前の国もあり,かなりバラつきはあるが低価格車の開発が原価企画の対象となっている。研究の側面については,先進国向けの原価企画は進んでいるが,新興国向けの研究が立ち遅れていることを指摘された。
 次いで,Bartlett and Ghoshal(1989)の先行研究を紹介され,グローバル型企業の戦略パターンについて述べられた。戦略パターンは,(1)グローバル戦略,(2)マルチナショナル戦略,(3)インターナショナル戦略,(4)トランスナショナル戦略の4つに分けられる。とくに,(4)トランスナショナル戦略は,(1)・(2)・(3)が発展した最終形態であり,本国と展開先との相互依存性を強くすることができる理想形であるという。先行研究の中では,新興国市場への展開が必ずとも示されておらず,その展開を考える余地があるとまとめられた。
 そこで,氏が2011年に調査された部品メーカーA社の事例を用い,新興国向けの原価企画がどのように行われているかを紹介された。最初に,A社が新興国における原価企画で失敗をした例を示された。失敗をした原因として,先進国で成功した原価企画を新興国にそのまま移転しようとしてしまったことをあげられた。魅力的品質の考え方は国ごとに違うため,現地適用品を開発しなければならなかったという。たとえば,車のエアコンは,先進国では静かな方がよいが,新興国(インド)においては音が出る方が好まれる傾向にある。新興国向けの原価企画においては,機能を落としてさらにコストを下げるという,いわばVEの「禁じ手」を使うこともやむを得ないという。この失敗から,原価企画の原点である「市場価値を取り込んだ源流管理」に立ち返ることを意識させられたと述べられた。この失敗を踏まえ,A社は,(1)最適機能,(2)最適品質,(3)最適生産,(4)現地化推進の4つを掲げ低コスト化を目指している。次いで,A社の中国での事例についても述べられた。
 最後に,Bartlett and Ghoshal(1989)の先行研究では,グローバル企業の戦略はトランスナショナル戦略が理想とされたが,A社の事例ではマルチナショナル戦略的な見解がなされる傾向があると主張された。今後は,国ごとにニーズが異なることを意識して「マルチナショナル型」の戦略パターンにおける原価企画をいかに展開できるかが課題となるとまとめられた。

■■ 第3報告:中嶌道靖氏・木村麻子氏

「日本のものづくりを強化するMFCAの有用性とは」

2012forum3_4.jpg 中嶌氏と木村氏の共同研究において中嶌氏が中心となり報告された。氏は,MFCAが物量管理とコスト情報を組み合わせて行われる管理会計技法の一つとして位置づけられることを説明され,(1)日本のものづくりの評価(マテリアルロスの発見),(2)日本企業のものづくりを強化する(マテリアルロスの削減),(3)MFCAの有用性とは(改善点の拡大と拡張・コスト削減と結びつく技術革新)という3つの視点で報告された。
 最初に,MFCAから日本のものづくりはどのように見えるのかを以下のように述べられた。物量情報の側面から「ものづくり」をみると,原材料のうち多くの部分がロスとなっているのが日本の現状である。それらは環境管理会計という手法のなかで資源生産性という言葉を使いながら説明されている。ものづくりという視点でとらえると無駄なく作ることが何よりも必要であり,MFCAを用いてコストで評価することが重要であろう。コストの評価が適切であるかないかという議論も欧米では存在しているが,MFCAは,たとえば35%が製品にならなければ製品原価全体の35%がロスになると考えてみようということだ。日本の企業の中には,無駄を出しながら生産しているという認識をしている企業はほとんどない。氏が調査したところ,コストに関しては「乾いた雑巾」でありこれ以上絞れるところはないと答える企業が多いが,実際にMFCAを用いてみると見えてくるコスト(ロス)があるという。
 次いで,サプライチェーンにMFCAを導入する意義について述べられた。マテリアルロス発生のカテゴリーを明確にされ,サプライチェーンでの品質情報の共有によるマテリアルロスの削減,つまり,管理レベルを合わせることによるマテリアルロスの削減について説明された。続いて,経済産業省産業 技術環境局環境政策課 環境調和産業推進室(2010)の資料を基に硝材メーカーとキヤノンの事例を取り上げられ,技術開発と技術連携によるマテリアルロスの削減について述べられた。自社だけでコストダウンを考えるのであれば,原価企画という考え方もありうるが,技術力がなければそれに対して答えることはできない。そもそも企業自身がどこに問題があるのかを把握していないのではないかという疑念のもと,サプライチェーンにMFCA的な考え方や情報を共有できれば,より大きな資源生産性の成果が得られるのではないかとまとめられた。また,氏が行った「MFCAをサプライチェーンで活用するためのアンケート調査(郵送1,561社,回答356社)」についても詳説され,MFCAの認知度や,取引の継続性と材料歩留りの把握・共同改善,2社間の情報窓口の実態などについて明確にされた。
 最後に,MFCAに対する3つの課題について述べられた。1つ目は,日本のものづくりにおいて,いかにサプライチェーンにMFCAを使った成功事例なり,マネジメントを作り出すかである。2つ目は,日本企業は海外にシフトを始めているが,日本で作ったMFCAのマネジメントをどのように海外に移転させるかである。3つ目は,マネージャーがいないという問題である。管理レベルと技術を作り上げても,それらをつなぎ合わせる人がいないという課題にぶつかる。技術と実行を噛み合わせる部分に人がうまく育っていないという現状が非常に大きな問題となっているという。

2012年度 第2回フォーラム開催記

2012年9月10日|川島和浩 (苫小牧駒澤大学)

2012forum2_1.jpg■■ 日本管理会計学会2012年度第2回フォーラムは,北海道大学を会場として,2012年7月21日(土)に開催された(実行委員長:篠田朝也氏)。今回のフォーラムでは,統一論題が設定されていなかったものの,管理会計と会計実務の関係を強く意識した研究報告と企業講演が行われ,活発な議論が展開された。第1部の研究報告では,丸田起大氏(九州大学),藤本康男氏(フジモトコンサルティングオフィス合同会社代表社員,税理士),長坂悦敬氏(甲南大学)の3名が報告された。第2部の企業講演では,北海道で活躍している元気な企業で,社会貢献活動を積極的に展開されている企業のなかから,実行委員長の篠田氏が株式会社富士メガネに講演を依頼した経緯が説明されたのち,大久保浩幸氏(株式会社富士メガネ取締役,人事・総務部長)が講演された。その後,場所を移して懇親会が行われ,夏の北海道でのフォーラムを惜しみつつ散会となった。

■■ 第1報告:丸田起大氏

「管理会計の導入効果の事例研究-産学共同研究への期待-」

2012forum2_2.jpg 丸田氏は,わが国における管理会計研究の発展に向けて,実務家と研究者との間で共同研究・共同開発が活発化されることの期待を表明するとともに,アクションリサーチに代表される関与型研究(interventionist research)にもとづいて実践されている共同研究「ソフトウェア開発における品質コストマネジメントの適用」の事例を紹介された。
 最初に,Jonsson and Lukka(2007)の先行研究から関与型研究を次のように示された。すなわち,リサーチサイトに貢献し,かつ,理論にも貢献することを目指すこと,リサーチサイトで現に生じている実務上の問題に取り組むこと,リサーチサイトの状況に適しており,かつ,理論に裏付けられている解決策のアイデアをフィールドテストすることによって,実務にも理論にも関連性(relevance)を持たせた研究ができるという。
 次いで,共同研究の取り組みを次のように紹介された。すなわち,研究サイトが製造装置メーカーX社のソフトウェア開発部門であること,他の共同研究者が梶原武久氏(神戸大学)と佐藤浩人氏(立命館アジア太平洋大学)であり,2010年4月から現在に至るまでサイトを13回訪問したこと,当初はビジターとして研究サイトに関与していたものの,次第にファシリテーターとして理論的見地から研究サイトに関与するようになったということである 。そして,研究開始後1年間の協議を踏まえて,品質コストの定義と測定対象について,(1)評価コストのうち定義から漏れていた部分を追加する,(2)テスト後の手直しなど測定が容易な部分から「内部失敗」の測定を開始する,(3)外部委託先での品質コストの推定対象を拡大するという変更が行われた。その 結果,品質コストのビヘイビアについて,品質コスト率が5?10ポイント上昇したこと,内部失敗コストの測定範囲がまだ限定的であるためその割合が5%以下にとどまっていること,予防コスト・評価コスト・失敗コストの間には,期待される関係が部分的にみられるものの現時点では明確な関係が確認できていないため経過観察が必要なことなどが説明された 。最後に,関与型研究の課題が,研究者の結果責任,研究成果の記述スタイルや媒体などにあることを指摘された。

■■ 第2報告:藤本康男氏

「中小製造業における管理会計導入の実務」

2012forum2_3.jpg 藤本氏は,地域に根差した企業を支援することによって地域経済の活性化に貢献するというミッションを実現するためには,中小製造業に管理会計を導入させることが重要であると主張された。氏が経営するコンサルタント会社では,経営者の意思決定に役立つ情報網の構築=「見える化」と,それを利用した経営改善のしくみを社内に定着させることを目的としており,経営者のみならず社員一人ひとりが「戦略」と「データ」にもとづいて考え行動する集団になることを目指しているという。氏は,この文脈から,オホーツク紋別にある水産加工(かまぼこ)会社に対する管理会計導入の事例を紹介された。
 実践事例では,最初に,バランスト・スコアカード(BSC)を用いた戦略マップの作成に際して,全スタッフへのヒアリングを実施し,社長とSWOT分析を行い戦略マップを作成し,方針発表会議を開催して戦略マップの共有化を図ったものの理解されずに苦労したという。しかし,戦略マップを年によって変えていくなかで,財務の視点のもとに地域貢献の視点を盛り込んで観光客の満足度向上を目指したところ,新工場建設に伴う無料の体験コーナーや工場見学コースの設置に照応して観光客から注目され,相乗効果を生み出す転機を得て,戦略マップの進化が期待できるようになったという。次いで,現場データの蓄積に際して,当初,原価計算が実施されておらず,在庫の帳簿管理も徹底していなかったことから,歩留まり,原価・経費,納期,光熱費,キャッシュフロー(在庫)に係る現場データの蓄積が困難だったという。しかし,原価計算や在庫管理が徹底されたことで,現在では各担当者が現場データを持ち寄って月次経営会議ができるようになり,PDCAサイクルが機能するようになったという。藤本氏は,従業員が当事者意識を持つようになり,経費の削減,在庫の圧縮,歩留まりの改善を経てPDCAサイクルが実践できるようになったこと,従業員が成長したことで企業体質が改善されていることを主張された。また,管理会計導入の全般的な課題として,管理会計を聞いたことがない経営者にどのように同意を得るかということ,現場データが蓄積されていないため予算管理が難しいこと,先生ではなくパートナーとして社長と一緒に問題解決に努める重要性を指摘された。

■■ 第3報告:長坂悦敬氏

「生産企画と融合コストマネジメント」

2012forum2_4.jpg 長坂氏は,製造関係との産学連携という視点から大学研究者として産業界にどのようなアクションが起こせるかという問題意識のもとで,管理会計のフレームワークやコントロール概念を深化・発展させる手掛かりとして,「融合コストマネジメント」(Fused Cost Management)というアプローチを提唱された。また,実務にインプリメントできる具体的なアクション研究をソリューションと捉えて,産学官の共同プロジェクトから開発・提案されたソリューションの事例を紹介された。
 最初に,「融合コストマネジメント」のイメージとしてコーヒー牛乳が例示された。コーヒー牛乳がミルクとコーヒーを混ぜ合わせたものであり,微妙な組み合わせでカフェオレやカフェラテと呼ばれるのと同様に,製品開発・設計,マーケティング戦略,危機管理(リスクマネジメント),BPM,品質工学,ダイバシティ・マネジメントのような各マネジメント手法とコストマネジメントとが,溶け合い,新しく形を変えたものが「融合コストマネジメント」であると説明された。そして,生産企画は,事業企画,営業,設計,調達,生産,品質保証,保守サービスと一体化していることから,原価企画は,まさに製品開発・設計とコストマネジメントの融合形態であることが指摘された。
 次いで,ソリューションの開発・提案の事例として,(1)BPMソリューションにおけるスマートフォンアプリの開発やERPの活用(KPIの抽出),(2)工程シミュレーションによる生産コストのフィードフォワード・コントロール,(3)トレーサビリティシステムによるフィードバック・コントロールにおける製造品質管理からのコスト低減やトラック運行管理からのコスト・環境負荷低減が説明された。最後に,各マネジメント手法と融合されるコストマネジメントを顕在化し,そのフレームワークを提示していくアプローチが必要であること,ソリューションを提示して現実に企業で実証できてはじめてそのモデルが発展して波及効果を生み出すことが指摘された。

■■企業講演:大久保浩幸氏

「お客様の『見る喜び』と経営を強力に支えるFTISの運用とその成果」

2012forum2_5.jpg 大久保氏は,メガネは医療用具であるという立場からお客様にメガネを提供していること,そのための人材養成をしていることを強調された。また,お客様の「見る喜び」という企業理念の具現化やノウハウの蓄積を一定のサービスレベルで保持して,売上を向上させていくためのソフトの開発が不可欠であると主張された。このソフトが富士メガネ総合情報システム(Fuji Total Information System,以下「FTIS」という。)であり,その導入経緯と機能の概要について説明された。
 次いで,経営の重点項目として,(1)市場創造(積極的な顧客創造),(2)経済および市場動向への対応,(3)個人の能力の開発とモチベーションの向上の3つを提示され,FTISがどのように活用されているかという現状を紹介された。富士メガネでは,チェーン店舗のどこからでも同じデータを見ることができ,参照データとしてお客様の視力のデータ,作成したメガネのデータ,応対記録などが入力されているため,お客様には時間をかけることなく顧客カードにもとづいてサービスの迅速な対応ができること,平成6年まで遡って顧客情報が蓄積されていることからお客様の変化に対応したサービスの提供ができることが説明された。また,業績を高めるためには個々の社員の能力とモチベーションを向上させるような管理と評価が重要であるが,FTISを活用することで,作業プロセスの検証を通じた弱点の分析がしっかりでき,それを踏まえたうえで行動目標を明確にして状況の改善に向かうという目で見る管理ができるようになることが強調された。 最後に,営業,財務会計,品質管理,損失の減少,効率化,人事管理などがすべてにわたって,ヒト,モノ,カネと連携を保っているところにFTISのすばらしさ,効用があると主張された。

2012年度 第1回 フォーラム開催記

2012年5月26日|坂手啓介(大阪商業大学)

2012forum1_1.jpg■■ 日本管理会計学会2012年度第1回フォーラムが,2012年4月14日(土)に大阪成蹊大学・短期大学にて開催された(実行委員長:大阪成蹊短期大学 三浦徹志教授)。今回のフォーラムでは,斉藤孝一氏(南山大学)の司会もと,景山愛子氏(安田女子大学),平井裕久氏(高崎経済大学)・後藤晃範氏(大阪学院大学)の2報告が行われ,松尾貴巳氏(神戸大学)の司会のもと,国枝よしみ氏(大阪成蹊短期大学)・鹿内健一氏(大阪成蹊短期大学)・田中祥司氏(大阪成蹊短期大学非常勤講師・早稲田大学大学院),島吉伸氏(近畿大学)・安酸健二氏(近畿大学)・栗栖千幸氏(医療法人鉄蕉会亀田メディカルセンター経営管理本部 企画部経営企画室)の2報告(計4報告)が行われた。
 2012forum1_2.jpgフォーラムでは,園田智昭副会長(慶応義塾大学)から開催挨拶があり,続いて大阪成蹊短期大学 武蔵野實学長より歓迎の挨拶を頂いた。武蔵野学長は挨拶の中で,大阪成蹊大学・短期大学の歴史や建学の精神について触れられ,今回のフォーラムにおける発表内容との関連で,自然環境における長期的最適条件を守りながら,経済的な短期的最適条件を目指すことの重要性について述べられた。
 武蔵野学長の挨拶の後,上記の4つの報告が行われたが,どの報告も活発な質問が寄せられ,大変有意義な討議が行われた。その後,場所を移して懇親会が行われ,散会となった。

■■ 第1報告:景山愛子氏(安田女子大学)

「リスクマネジメントと管理会計の接点:ERM を導入する場合
-カリフォルニア州立大学バークレー校のケース-」

2012forum1_4.jpg 景山氏はまず,環境変化が激しく,リスクが複雑化,多様化している現代では,企業価値を高めるためにリスクマネジメント(RM)を導入することが重要であり,RMのPDCAサイクルに管理会計が関わるべきであると述べた。そして,RMと管理会計との関わりをカリフォルニア州立大学バークレー校の事例研究において考察するという本報告の目的を示した。
次に,RMには段階的な分類があり,現在では,全社的な視点にたったEnterprise Risk Management(ERM)が重要であると指摘した。そしてERMについて説明したうえで,欧米においては,すでに大学にERMが導入され,ERMに管理会計が広く関与していると述べた。続いて,ERMを大学に導入するメリットを示した上で,カリフォルニア大学でERMが導入された経緯について説明した。カリフォルニア大学におけるERMでは,「効率性を高める」,「リスクコストを下げる」,「借入費用を改善する」,「ITと業務の余剰を減らす」という4つの結果を重視しており,Enterprise Risk Management Information SystemやBudget Changes Workbookというツールを利用することで上記の目的を達成していると報告した。
 最後に,管理会計とRMの関係については,すでにレピュテーションマネジメントなどで研究されているが,研究の方法論についてはまだ整理が必要であるという点,および,大学を含めた非営利組織において近年意識されている組織の「価値」を考えるためには,定量的な情報だけでなく,定性的な情報についても十分考慮する必要があり,定性的な情報をどうとらえるかについて今後検討する必要があるという点を本報告のインプリケーションとして示した。

■■ 第2報告:平井裕久氏(高崎経済大学)・後藤晃範氏(大阪学院大学)

「株価と労働環境の関連性について」

2012forum1_5.jpg 平井氏は,まず企業価値の測定におけるインタンジブルズ情報の把握の重要性について述べ,インタンジブルズ情報の一つとしての人的資本,特に従業員満足度に関する情報と企業価値との関連性について検証を行うという研究目的を示した。次に,先行研究のレビューを通して,日本と米国における人的資産に関する考え方に差異があることを指摘しながらも,経営上重要な要因であることを再認識することの重要性を指摘した。
 平井氏は従業員満足度と企業価値との関連性について考察するために,Edmansの 2011年に行われた統計的分析手法を参考にして,東京証券取引所1部上場企業で2005年度から2009年度までの日経「働きやすい会社ランキング」の上位100社に該当する企業をサンプルデータとした分析を行うという分析方法を示した。そして,働きやすさを従業員満足度の代替変数とした場合,従業員満足度が株式市場における株価と関連性があるという分析結果を述べた。
 今後の課題として,従業員満足度と株価との因果関係を明らかにするためにはさらなる検証が必要となる点,日本経済新聞社によるランキング以外の従業員満足度の代替変数を考えることの重要性,企業価値評価における人的資本以外の項目を考慮することの必要性 を挙げた。最後に,上記の検討課題があるものの,従業員満足度と企業価値との関連性が高いことは事実であり,労働環境における情報開示が企業価値の評価の1つとして用いられるようになることが期待されると報告した。

■■ 第3報告:国枝よしみ氏(大阪成蹊短期大学)・鹿内健一氏(大阪成蹊短期大学)・
田中祥司氏(大阪成蹊短期大学非常勤講師・早稲田大学大学院)

「観光振興と住民の意識
-奈良県宿泊施設経営者の意識に関する調査の分析より-」


2012forum1_7.jpg 観光は現在,重要な国家戦略として位置づけられているが,環境破壊などの負の影響が存在することが課題として指摘されている。イギリスでは1999年頃から,人々の「幸せ」という価値観に焦点が当てられており,経済的な側面だけでなく,持続可能な発展に関して多様な研究結果が報告されている。ただし,持続可能な発展を実践していく立場である小規模ツーリズムとホスピタリティ企業の研究は少数であるため,奈良県の小規模宿泊施設経営者を対象としたアンケート調査により,経営者の観光開発に対する態度,認識,経営行動の構造を明らかにするという研究目的を示した。
 まず,先行研究についてレビューし,5つの仮説について説明した。そして,「仮説1:企業規模が大きいほど観光に対してポジティブな傾向がある」はおおむね支持,「仮説2:勤務地域により観光に対する意識が異なる」は支持,「仮説3:ホテル旅館の勤続年数により観光に対する意識が異なる」は不支持,「仮説4:ホテル旅館経営者の居住地域により観光に対する意識が異なる」は支持,「仮説5:ホテル旅館経営者の居住年数により観光に対する意識が異なる」は不支持という分析結果を示した。
 さらに質問項目の因子分析を通じて抽出した5つの因子により,旅館・ホテル経営者意識に関する構造方程式モデルを示した。このモデルから,経営者の観光に対するポジティブな意識が観光の推進力となり,そのため社員教育による品質の向上が重要となる点,経営努力が環境負荷などの社会的な負の影響を与えるという点が明らかになると述べた。
 最後に,小規模エリアにおけるネガティブ要因(費用,生活費の増加,値上がり,環境への悪影響)に対する対策や小規模エリアを含めた観光推進策の重要性について示した。

■■ 第4報告:島吉伸氏(近畿大学)・安酸健二氏(近畿大学)・
栗栖千幸氏(医療法人鉄蕉会亀田メディカルセンター 経営管理本部 企画部経営企画室)

「非財務指標と財務指標の関係に関する実証研究:国立病院データの分析」

2012forum1_8.jpg 本報告において,まず,島氏は非財務指標の重要性を示すためには,非財務指標が持つ財務業績の説明力について示す必要があり,そのために,国立病院で行われてきた患者満足度調査の結果を通じて,国立病院の収益,費用,利益の変動について分析するという研究目的を示した。次に,先行研究のレビューにより非財務指標と財務成果の変動との関係について検証するという目的には,顧客満足度を非財務指標として用いることが適切であると述べた。
 続いて,複数の国立病院を対象とした複数年度にわたる患者満足度の変化と病院の収益,費用,利益の変動の関係を統計的に分析するという研究アプローチを示し,研究に利用されたデータの概要(国立病院約150病院の5年分のデータ)および,顧客満足度とコストや収益の関係について説明した。
2012forum1_9.jpg 次に,安酸氏は本報告におけるパネル分析の方法を3つ示し,それぞれの分析における推定結果を示した。そして,その結果によって得られるインプリケーションは満足度指標に「全体として病院に満足」という回答を採用した場合と,「家族や知人に勧めたい」という回答を採用した場合とで大きく異なると述べた。安酸氏によれば,前者の場合は,(1)満足度の向上はコストには影響しない,(2)入院患者の満足度は病院の財務面に影響しない,(3)相対的に高い満足度をさらに高めることは収益にマイナスの影響を及ぼすというインプリケーションが,後者の場合は,(1)外来患者の満足度はコストに影響する,(2)入院患者満足度は病院の財務面に影響する,(3)相対的に高い満足度を高める努力は病院の収益にプラスの影響をもたらすというインプリケーションが得られるということであった。

2011年度 第3回フォーラム開催記

2011年12月10日|妹尾剛好 (和歌山大学)

■■ 日本管理会計学会2011年度第3回フォーラムが,2011年12月10日(土)に東京経営短期大学において開催された(実行委員長:東京経営短期大学教授 岩渕昭子氏)。今回のフォーラムは,「非営利組織の管理会計」という統一テーマに沿って,研究者と実務家が報告を行うという,非常に魅力的なプログラムであった。フォーラムでは,園田智昭副会長(慶應義塾大学)から開会挨拶があり,伊藤和憲氏(専修大学)の司会のもと,伊藤 博氏(市川市役所企画部行政改革推進課),渡邊直人氏(首都大学東京),および大西淳也氏(財務省財務総合政策研究所)の計3名から報告が行われた。各報告に対し,フロアから活発な質問や意見があり,極めて有意義な議論がなされた。その後,場所を移して懇親会が行われ,散会となった。

■■ 第1報告:伊藤 博氏(市川市役所企画部行政改革推進課長)

「市川市の行政改革 -ABCと附属機関による公開検討会を中心に-」


2011forum3_1.jpg  伊藤氏は,まず行財政改革の取り組みを中心に市川市の状況を述べたうえで,その取り組みのひとつである市川市版ABCについて詳細に報告した。市川市版ABCの特徴として,分析自体にかかるコストが大きいことといった一般的なABCのデメリットを解消するため,総コストではなく職員の活動量に着目し,業務ごとの活動従事量を把握し,特に定型的業務の詳細な活動量を対象としていることを述べた。市川市では,市川市版ABCをシステム化し,各職員からのデータ収集を行い,職員個人レベルの活動までデータ化することにより,市民サービス直結業務と内部管理事務の活動量の詳細が可視化されていることを説明した。そして,市川市版ABCから導かれる効果として,内部管理事務や定型的業務をできるだけ効率的にしつつ,市民サービス直結業務に人材を再配置でき,市民サービスを維持しつつ,コストの削減が可能となることを示した。さらに,伊藤氏は,市川市市政戦略会議による,事業仕分け(平成22年度)と施設の有効活用にかかる公開検討会(平成23年度)についても報告した。はじめに,事業仕分けの実施内容を説明し,事業の可視化の進展といった効果や,結果が極端になるといった課題を示した。つぎに,施設の有効活用にかかる公開検討会の実施内容を説明したうえで,事業仕分けと施設の有効活用にかかる公開検討会を比較し,前者が事業の量的な側面からのアプローチ,後者が事業の質的な側面からのアプローチとして検討するために適している可能性を指摘した。

■■ 第2報告:渡邊直人氏(首都大学東京助教)

「組織成員の目標達成,行動意識,および自律性の関係
-BSCを利用したわが国医療組織における実証的研究-」

2011forum3_2.jpg 渡邊氏は,まずBSCに関する研究を参照し,わが国医療組織において多面的な目標達成につながる組織成員の心理構造を解明するという研究目的を示した。そのうえで,先行研究における理論的背景を踏まえ,組織成員の目標達成,行動意識(財務意識,患者意識,学習意識),および自律性の関係について理論モデルを構築し,それに基づく複数の仮説を提示した。そして,渡邊氏は,敬愛会中頭病院・ちばなクリニックと福井県済生会病院に対する経年的アンケート調査から得られたデータをサンプルとし,共分散構造分析によってこれらの仮説を検証した。分析の結果,次の4つの発見事項を指摘した。第1に,学習意識は業務に対する自律性から正の影響を受ける。第2に,財務意識と患者意識は,学習意識から正の影響を受ける。第3に,BSCの4つの視点に対する目標達成は,学習意識と財務意識から正の影響を受ける。第4に,目標達成に対しては,学習意識から財務意識と患者意識を媒介した間接効果よりも,学習意識からの直接効果のほうが相対的に強い影響を及ぼす。

■■ 第3報告:大西淳也氏(財務省財務総合政策研究所客員研究員,早稲田大学ビジネススクール非常勤講師,内閣府参事官(財政運営基本担当)

「公共部門の管理会計における今後の課題」

2011forum3_3.jpg 大西氏は,まず公共部門の管理会計における今後の課題について,組織マネジメント,政策マネジメント,投融資等マネジメントの3つに分けて整理・提示した。これまで管理会計が活用されてきた組織マネジメントだけではなく,政策マネジメントにおける業績測定や,投融資等マネジメントにおける財政投融資・政策金融,さらにはPFI等といった領域への管理会計の活用可能性を示した。そして,国税組織などを調査対象とした組織マネジメントのケース・スタディについて報告し,公共部門においてもABM,ABC,BSCといった管理会計手法に近い実務が行われていることを明らかにした。これらのケース・スタディに基づき,ABMなどのさまざまな管理会計手法を公共部門の効率性と効果性に関連づけた基本モデルを提示した。また,日本だけではなく,各国の労働集約的な公共部門の管理会計の実態も示した。さらに,大西氏は,管理会計手法等の導入プロセスについても報告した。管理会計手法等の導入プロセスについて,ABMの導入を起点にミクロへの展開とマクロへの展開を説明したうえで,導入に際して重要になる要因として,人事権とリンクしたリーダーシップの継続,全体像を踏まえたうえでの漸進的な導入,組織の損得勘定への働きかけなどを明らかにした。

2011年度 第2回フォーラム開催記

2011年8月10日|塘 誠 (成城大学)

2011forum2_1.jpg■■ 日本管理会計学会2011年度第2回フォーラムが,2011年7月16日(土)13:00から成城大学において開催された(実行委員長:成城大学教授 塘 誠氏)。今回のフォーラムは,鈴木研一氏(明治大学教授)の司会のもと,境 新一氏(成城大学教授),磯崎 哲也氏(磯崎哲也事務所代表,公認会計士),山田有人氏(大原大学院大学教授 吉本興業監査役),そして川上昌直氏(兵庫県立大学准教授)の計4名から報告が行われた。フロアからも活発な質問が寄せられ,有意義な討議が行われた。その後,場所を移して懇親会が行われ,散会となった。

■■ 第1報告:境 新一氏(成城大学教授)

「感動創造の価値と価格に関する考察-アート・プロデュースの視点から-」

2011forum2_2.jpg 境氏は,アート・プロデュースの視点から感動創造の生み出す価値を反映した価格設定に関する現状と課題について報告された。最近のデジタル・IT技術の進展やソーシャル・メディアの台頭を背景として,産業に活用される発明や技術のみならず,アートの経済的価値が高まりつつある。とりわけアートは社会的な価値づけが重要であるため,保護と普及を一組に考える必要があり,その意味で,知的財産と似た属性を持つとされる。芸術・技術・特許などがアートとして融合し,創造性を発揮しながら文化的・経済的価値を創出するためには,アート・プロデュースという包括的な取り組みが必要であることが指摘された。
感動創造の生み出す価値とその価格の関係性については,多様な価値評価尺度が求められる。従来型の製造業やサービス業と違い,アートに代表される感動創造の生み出す価値については,その価値と価格の関係性の検証が難しいことが特徴とされる。管理会計は,使用価値,交換価値,文化的価値,美的価値,芸術価値,経済的価値,商品価値などの多様な価値評価尺度を包括して,価格と対置できる仕組みの構築について貢献が期待されることが示唆された。

■■ 第2報告:磯崎 哲也氏(磯崎哲也事務所代表,公認会計士)

「起業のファイナンス」

2011forum2_3.jpg 磯崎氏は,日米のベンチャーファイナンス事情の比較検討を通じて,日本のベンチャー界における「生態系」の充実の重要性が指摘された。生態系とはつまり,上場やバイアウトを経験した企業家や,ベンチャー支援をするエンジェルやベンチャーキャピタルなどの投資家,弁護士や会計士などの専門家,CFOやCTOなど鍵となる役員の候補者などのネットワークのことである。日本はアメリカから遅れること四半世紀,1990年代の終わりに証券ビッグバンを迎えるに至った。つまり日本の本格的なベンチャーファイナンスはまだ,始まってから10年少ししか経っていない。ベンチャー企業が活躍する素地を作るためには,良いベンチャー企業の卵が存在するだけではなく,それらを育てる生態系の充実が必要となる。ベンチャー投資は縮小しているように見えるが,ここ10年で日本においてもこの生態系は大きく発達した。米国では,国内市場での成功だけでなく,世界全体での成功に向けたプランがベンチャーキャピタルから求められる。日本においても,楽天やDeNA,グリーのように国内市場で成功を収めたベンチャー企業が世界市場へ進出する動きがあるが,最近では当初から海外市場での活躍を目指すベンチャー企業も出始めている。今後10年で時価総額数千億円以上の企業が10社出てくるようであれば,日本のベンチャーへの関心も好転を期待できるのではないかとの指摘があった。さらに,昨今の米国における上場前後のベンチャー企業の事例を踏まえて,米国におけるベンチャー投資が局所的にバブル気味であることを指摘し,生態系発達のためには「盛り上がり」も重要であることが指摘された。

■■ 第3報告:山田有人氏(大原大学院大学教授,吉本興業監査役)

「製作委員会方式による資金調達の功罪」

2011forum2_4.jpg 山田氏は,映画製作における資金調達について,日米の比較を通じてその現状と課題について整理された。日本の映画製作において採用されることの多い製作委員会方式は,委員会に加入する多数のメンバーから資金調達が可能となり,リスク分散を期待できるメリットがある。しかし一方で,メンバー間の責任・権限関係のあいまいさから,コンテンツビジネス全体の戦略を不明確にし,意思決定プロセスが明示化できない点に課題があることを指摘された。例えば,日本映画はリメーク権ビジネスにおいては多くの原石が存在すると思われるが,製作委員会方式という責任と権限関係があいまいな共同事業体により,海外企業の参入を困難にしている。また,製作委員会のメンバーは出資者であると同時にコンテンツ販売の窓口権を有するため,純粋な出資者の受け入れが困難であること。さらに,製作委員会方式を前提とすると,実積のない新規の参入者が割り込む余地がないことも指摘された(この問題に対してハリウッドにおいては,新規の参入者であっても,完成保証会社との間で完成保証契約を締結することで,銀行からの融資を通じた製作資金の調達を可能にしていることが報告された)。また,日本映画産業の全体的な問題点として,ネット化・成熟化した社会における収益獲得モデルの構築,広告宣伝投資等の意思決定会計の充実,製作予算における管理システム機能の強化の必要性が提示された。

■■ 第4報告:川上昌直氏(兵庫県立大学准教授)

「ビジネスモデルの新たなフレームワーク-実際の変革事例から-」

2011forum2_5.jpg 川上氏は,顧客満足と利益の両立を図るために求められる価値創造について,たざわ湖スキー場の事例を用いながら報告された。第一に,価値創造を図る仕組みの体系化にあたり,事業の仕組みを設計する思考方法としてのビジネスモデルと,結果として形成された事業の仕組みであるビジネスシステムの違いを,明確に認識することの重要性を指摘した。第二に,ビジネスモデルを考えるためには,デザインのフレームワークが必要であることを指摘した。すなわち,顧客価値を創造し,それを実現する提供の仕組み,そして目標とする利益を達成するための体系が必要とされる。その価値創造の鍵は,価値のオーナーである顧客の取り分としてのWTP(Willingness-to-pay)をいかに高めるかにあり,WTPを超えた価格設定は成立しえない。この具体例として,たざわ湖スキー場でのビジネスモデル変革を取り上げた。当該事例は顧客不満足の源泉を探り,コストに見合った形で問題を解消するビジネスモデルがいかに構築されるのか明らかにするものであった。そこでは,価値を保証し,乏しい資源でも実現可能な活動を通じてサービスを実現し,すべての顧客を対象にするのではなく課金対象をずらすことで価値創造を実現するに至ったとのことである。この事例を通じて,価値創造を可能にするための顧客価値創造・利益創出・価値提供の3要因を体系化させたビジネスモデルの構築の必要性が改めて示唆された。

2011年度 第1回フォーラム開催記

2011年5月 8日|平井裕久 (高崎経済大学)

2011forum1_1.jpg■■ 日本管理会計学会2011年度第1回フォーラムが,2011年4月23日(土)に大阪大学において開催された(実行委員長:大阪大学准教授・椎葉淳氏)。今回のフォーラムでは,実行委員長の椎葉淳氏から開催に際して挨拶があり,園田智昭副会長(慶應義塾大学)の司会のもと,三浦徹志氏 (大阪成蹊短期大学教授)と内山哲彦氏(千葉大学法経学部准教授),そして伊藤和憲氏(専修大学)の司会のもと,芝尾芳昭氏(イノベーションマネジメント株式会社パートナー )と中嶌道靖氏(関西大学商学部教授)の計4名から報告がおこなわれ,それに対するフロアからの活発な質問や意見もあり有意義な議論がなされた。その後,待兼山会館(大阪大学)にて懇親会が行われ,散会となった。

■■ 第1報告:三浦徹志氏(大阪成蹊短期大学教授)

「協調戦略による事業価値と管理会計の論点 -合弁設立のケースから-」

2011forum1_2.jpg 三浦氏は,戦略的な意図から組織間で取り組まれる協調行動について,そのモニター,業績評価などに関する管理会計の役割・意義を報告された。仮説として「合弁などの戦略的アライアンスによる事業価値育成には管理会計固有の支援・貢献が求められる」,「アライアンスの要素である組織間学習を促進・継続するためにはパートナーとの会計的信頼が重要である(失敗例も多いため)」,「業種・成熟度などの企業の非対称性,業界の水平・垂直関係などの条件と提携の効率には個別の特徴(相関等)が予測される」等を挙げ,有効性や安定性に対し管理会計のロジックを検討し,これをIBM他のケースにより検証された。

■■ 第2報告: 内山哲彦氏(千葉大学法経学部准教授)

「人的資産と管理会計」

2011forum1_3.jpg 内山氏は,「統合的業績管理システム」の深化と拡張に向けた課題を提示された。まずインタンジブルズとしての人的資産について,企業の戦略に対して整合的な構築が必要であることが説明された。これには,特に採用や能力開発といった人材育成と業績評価の問題が重要で一層の柔軟的対応や,報酬付与と業績管理,そしてその下での人材育成について,戦略・業績への貢献にリンクした人材育成と人的資産の貢献性の細分化が必要であることが報告された。質疑においては,成果主義の捉え方やERPとの関連といったことまで討議された。

■■ 第3報告: 芝尾芳昭氏(イノベーションマネジメント株式会社パートナー)

「プロジェクトベース予算によるイノベーションの推進」


2011forum1_5.jpg 芝尾氏は,まず製薬企業の事例により,予算制度の抱える問題について報告された。ここでは,従来の予算制度の限界として,プロジェクトに対する予算の柔軟性について部門で予算を守ろうとするために生じる問題や,予算費目の弊害として戦略費と組織維持費の混在により戦略費を組織維持費が浸食し予算が硬直化していることが説明された。次に変化への対応力について,外部環境への対応力を上げるためにコントロールサイクルの強化やイノベーション予算の分離が必要であることを指摘された。その上で,三段階予算制度の導入やプロジェクト予算と組織予算の連携,そしてポートフォリオマネジメントによる投資配分などの必要性を明示された。

■■ 第4報告: 中嶌道靖氏(関西大学商学部教授)

「マテリアルフローコスト会計の管理会計手法としての有用性の再検討について」

2011forum1_6.jpg 中嶌氏は,マテリアルフローコスト会計(MFCA)に関して,特に原価計算制度との関係について焦点をあて実務的な課題を明らかにされた。報告では,まずMFCAのこれまでの展開について説明され,MFCAによるコスト削減をもたらす情報に関して,マテリアルロスの分類や材料歩留まりと差異について報告された。またオムロン倉吉の事例により標準原価による原価管理プロセスに関して検討された。
 最後に標準原価情報では,材料の余裕率の設定により,MFCAよりもマテリアルロスの全体が把握できないこと,マテリアルロス(物量)の削減が一義的であるので,技術的なコミュニケーションをMFCAは予定しているとまとめられた。

2010年度 第3回フォーラム開催記

2010年12月 6日|奥本英樹 ( 福島大学 )

■■ 日本管理会計学会2010年度第3回フォーラムは,10月23日(土)午後1時より福島大学において開催された。今回のフォーラムは,「中小企業経営と管理会計」という統一テーマに沿って,研究者と実務家が報告を行う興味深いプログラムであった。フォーラムでは,貴田岡信氏(福島大学)の司会のもと,藤井一郎氏(筑波大学大学院・?みどり合同経営),奥本英樹氏(福島大学),板倉雄一郎氏(寺田共同会計事務所),佐藤英雄氏(福島信用金庫)の4名が報告を行い,フロアとの活発な議論が交わされた。その後,場所を移して懇親会が行われ,散会となった。

■■ 第1報告:藤井一郎氏

「中小建設業における付加価値基準の活用について」

2010forum3_1.jpg 藤井氏は,最初にわが国の建設業の状況をマクロデータとともに示した後,建設業の特性と課題を述べた。そのうえで藤井氏は,建設業の抱える課題のうち,現状の会計処理に関する課題と人材上の課題とに焦点を当て,その問題点を明らかにしながら,課題解決に向けた提言を行った。会計処理に関する課題では,工事完成基準と工事進行基準とを対比させながら,それらを「期中の業績把握」,「予実管理」,「着地見込み」という3つのタテ軸となる評価視点と「正確性」,「スピード」,「その他の問題点」という3つの横軸となる評価視点によって形作られた9マスのマトリックスによって,それぞれのメリット,デメリットを指摘した。この結果,現状の会計処理上の視点となる工事完成基準および工事進行基準にはそれぞれ一長一短が存在するが,ともにマネジメントの視点からは問題が多く,受注判断や人材のコントロールにおいて誤った意思決定へと導く可能性のあることが指摘された。
 評価方式の客観点がほぼ説明できてしまうことなどを指摘した。 藤井氏は,こうした現状の会計処理およびそれによる人材上の課題解決に向けて,新たに「工事別付加価値一覧表」の活用を提唱された。直接原価計算をベースとしたこの「工事別付加価値一覧表」を導入することによって,藤井氏は「期中の業績把握」と「予実管理」が容易になるだけでなく,現場代理人を中心とする人材の動機付けおよび業績評価に大きなメリットが生じることを指摘した。

■■ 第2報告:奥本英樹氏

「中小建設業における財務的特徴と総合評価方式の課題」

2010forum3_2.jpg 奥本氏は最初に,近年,国をはじめ多く地方で建設業における入札制度が従来の指名競争入札制度から市場原理に基づく一般競争入札制度にかわりつつあることを述べたうえで,平成19年度に一般競争入札制度を全面導入した福島県における建設業の状況と一般競争入札制度が抱える問題点をインタビューデータおよび財務データを用いた検証によって指摘した。福島県に本社を置く中小建設業者に対して行ったインタビュー調査による結果では,地方の一般公共土木建設市場が未成熟であること,業者間における経営品質が非均質であること,現行の一般競争入札制度が中小建設業者の適正な競争を導いていないことなどが指摘された。次に,奥本氏は,現行の条件付一般競争入札制度を支える総合評価方式の問題点に関して,福島県建設業協会に所属する243社の財務データとそのうちの40社に対して行ったインタビューデータとによる検証結果をもとに報告した。奥本氏は検証結果に基づき,現行の総合評価方式が企業規模に大きく依存してしまうこと,および建設業界が暗黙裡に保有する業界独自のソフトな情報によって,総合総合評価方式の客観点がほぼ説明できてしまうことなどを指摘した。

■■ 第3報告:板倉雄一郎氏

「中小企業の成長のための財務情報の活用-経営者に必要な情報について-」

2010forum3_3.jpg 板倉氏は,まず,中小企業の現状を各種の資料,データによって述べた後,中小企業会計の動向をわが国における会計ビックバン以降の会計基準の改定,新設などの経緯とともに報告した。そのうえで板倉氏は,企業のグローバル化によってわが国の会計基準がIFRSへと準拠する傾向に対し,そうした会計基準に基づく会計処理および会計情報が中小企業の経営実態とそぐわないことを指摘し,中小企業会計基準の設定が必要であることを提唱した。さらに板倉氏は,会計情報の特性として中小企業経営者にとっては,とりわけ理解可能性と目的適合性が重要であると指摘し,中小企業経営者の戦略的経営に役立つ情報が作成,報告される会計システムの構築が必要であると指摘した。

■■ 第4報告:佐藤英雄氏

「中小企業金融の現状と財務格付けの課題」

2010forum3_4.jpg 佐藤氏は,最初にわが国の金融制度および金融機関の体系を述べ,わが国の金融機関の概要を業態別に金融データによって報告した。次に,佐藤氏は借り手たる企業と貸し手たる金融機関との間の業態を越えた多元的,複合的金融関係を示した後,わが国において欧米と異なり,金融に関する基準が規模を反映しないほぼ同一の基準となっている点を問題として指摘した。さらに,佐藤氏は中小企業向けの貸出状況をデータを用いて詳細に報告しながら,中小企業向け貸出における財務格付けの実態を現実の資料をもとに示された。最後に,佐藤氏は,借り手たる中小企業と貸し手たる金融機関との間に存在する情報非対称性に関して,アンケートデータとともに指摘し,中小企業金融の抱える問題点を明らかにした。

■■ 本フォーラムでは,わが国において決して研究蓄積が豊富であるとはいえない中小企業経営とその実態に対して,4つの興味深い報告がなされた。また,報告後の質疑応答ではすべての報告において活発なやり取りが行われた。とりわけ,第3報告および第4報告では,一般的には入手が困難であろう詳細な実態報告がなされ,フロアも熱気に包まれた。本フォーラムでは4つの報告の後,パネルディスカッションが予定されていたが,各報告中の質疑応答が白熱し,すべての報告が予定時間を超過したため,当該予定がキャンセルされるというハプニングが生じたことも付記しておく。ただし,パネルディスカッションで行われたであろう議論は,懇親会の場で活発になされていたようであり,非常に有意義なフォーラムであったと思われる。

2010年度 第2回 フォーラム(兼 第1回関西・中部部会)開催記

2010年5月27日|関西・中部部会 実行委員 古田隆紀(大阪学院大学)

本開催記は,関西・中部部会のページに掲載しています。

2010年度 第1回フォーラム開催記

2010年4月30日|山下功氏 (新潟国際情報大学)

2010forum1_1.jpg■■ 日本管理会計学会2010年度第1回フォーラムは,4月17日(土)午後に横浜国立大学において開催された。
本フォーラム実行委員長の溝口周二氏による開会挨拶に続き,同氏の司会により,古田清人氏(キヤノン株式会社 環境本部 環境企画センター),竹原正篤氏(マイクロソフト株式会社 環境・グリーンIT担当部長),河野正男氏(横浜国立大学名誉教授)の3名が報告をされた。次いで行われたパネルディスカッションでは,壇上の司会者及び報告者の4名とフロアーの参加者の間で活発な議論が行われた。その後,場所を移して懇親会が行われ散会となった。

統一テーマ : 「環境マネジメントと管理会計」

■■ 第1報告:古田清人氏

「キヤノンの環境経営について(管理会計手法の活用)」

2010forum1_2.jpg 古田氏は,最初に環境がもたらす企業活動への制約とインセンティブについて一般的な説明を行った上で,キヤノンの環境ビジョンについて述べた。そこで示されている具体的な考え方は,ライフサイクル全体の環境負荷を視野に入れて,豊かさ(製品の高機能化)と地球環境(環境負荷の最小化)を同時に実現することである。
次に,製品における環境保証の3本柱が示された。それは「省エネルギー」「有害物質廃除」「省資源」からなり,製品ライフサイクルを通じて環境負荷を最小化し,法規制の先取りで製品競争力につなげるという考え方である。その具体的な取り組みとして,製品開発段階における二酸化炭素情報の把握と低環境負荷材料の採用が挙げられた。
 前者においては,3次元CADでコストテーブルを使用したライフサイクルコストの集計が行われており,原価情報と二酸化炭素情報が連動していることが強調されていた。そこでは,エネルギー原単位の単価への換算における精度が低いことや二酸化炭素削減の要因の明確化が今後の課題として示された。  続いて,事業所(工場)活動における環境保証の3本柱が示された。それは「地球温暖化防止」「有害物質廃除」「省資源活動」からなり,ISO14001による環境管理と,ムダの排除という考え方が根幹にある。その具体的な取り組みとして,マテリアルフローコスト会計の分析結果からロスの改善への展開が挙げられた。ここでは,硝子レンズの研削工程において作業屑をマテリアルロスとして顕在化し,作業屑そのものを削減する改善案が検討されている。なお,マテリアルフローコスト会計はキヤノングループの主要生産拠点で導入され,億円単位の経済効果を挙げている。
 最後に,キヤノンが目指す環境経営が示された。それを要約すると「経営への貢献と,地球環境保護の両立」であり,換言すると「環境活動を進めることによって,収益を上げ成長する会社,会社も個人も尊敬される会社」を目指すということである。

■■ 第2報告 :竹原正篤氏

「グリーンITと環境管理会計」

2010forum1_3.jpg 竹原氏は,最初に世界及び日本の二酸化炭素排出量の統計情報を示した上で,情報化社会の進展がIT機器による消費電力の増大をもたらすことを特に問題視している。その一方で,IT技術の進展が電気機器の省エネをもたらすことを指摘し,ITによって社会全体の省エネを支えるという考え方を提示している。 論題である「グリーンIT」とは,増大するIT機器の省エネ(Green of IT)を推進するとともに,ITを活用して社会全体の省エネを推進(Green by IT)し,低炭素社会の実現を加速させようとする取り組みである。グリーンITの重要な課題の1つが効果測定であり,会計的手法を活用してその効果を「測定」「評価」するモデル開発へのニーズは高いことが強調された。
 Green of ITの事例として,クラウドコンピューティングが挙げられた。そこでは,大規模データセンターにリソースを集約することでエネルギー消費が最適化することにより,クラウド導入企業のエネルギー消費量は一般的に低下することが予想されると考えられるが,マクロレベルでエネルギー消費量が減少したかどうかを検証することは非常に難しいことが指摘された。また,Green by ITの事例として,ITを活用して供給側と需要側の電力のバランスを自動的に制御する次世代送電網であるスマートグリッドが挙げられた。これは,太陽光や風力等の再生可能エネルギーの導入拡大と電力品質の安定維持の両立に欠かせない技術といわれている。
 次に,グリーンITの測定・評価の問題が挙げられた。ITの環境負荷評価では,国際規格化された手法であるライフサイクルアセスメント(LCA)が活用されているが,管理会計の手法は援用されていないことが指摘された。次に,具体的な評価手法として「機能単位」と「システム境界」の設定が挙げられた。前者は評価する製品の主要な性能や機能を定量化することであり,後者は調査範囲を設定することである。これにより,従来のシステムと新しいシステムの比較を可能にしている。また,ITの環境効率は,「ITが提供する価値」を「ITの機能単位当たりの環境負荷」で除した値で定義される。  最後に,グリーンITへの貢献を評価する枠組みについて検討が行われ,生産から使用,更にはリサイクルに至るLCA全体で環境貢献を評価すべきであると結論づけている。

■■ 第3報告: 河野正男氏

「環境マネジメントの進展と管理会計」

 河野氏は,最初に環境マネジメントの内部化について言及している。その一つは「質の内部化」であり,環境問題への対応に当たっての経営環境の革新,換言すると環境保全活動を評価の対象とすることである。もう一つは「量の内部化」であり,環境マネジメントの結果を貨幣単位及び物量単位で把握することである。そして,質の内部化の進展が量の内部化を促進するとしている。
 次に,環境マネジメントの内容の変化について,リコー,グリーンマネジメントプログラム・ガイドライン,國部委員会の各ケースを挙げながら説明している。そして,環境マネジメントシステムの役割が廃棄物,エネルギー使用量,水使用量等の削減からより広範かつ経営の根幹に関わる内容に変化していることを指摘している。
環境マネジメントの意図が環境負荷物質の削減にあることから,その排出量及び削減量等の物量情報によって評価されることが不可欠である。また,環境マネジメントの費用対効果の把握の視点からは,環境関連のコストや収益等の貨幣情報も必要である。そして,環境マネジメントでは,ISO14000シリーズ関係,環境会計,環境報告書,カーボンオフセット,カーボンフットプリントなどの手法が用いられる。
 環境会計はミクロ環境会計とマクロ環境会計に大別され,前者はさらに外部環境会計と環境管理会計に分類される。環境管理会計の手法を対象別に分類すると,企業サイトを対象とした手法と製品を対象とした手法に分類される。前者の例として,マテリアルフローコスト会計,環境配慮型投資決定法,環境予算マトリックス,環境配慮型業績評価が挙げられる。また後者の例として,ライフサイクルコスティング,環境配慮型原価企画,環境品質原価計算が挙げられる。 環境マネジメントは,環境対応,環境保全,環境経営という3段階で進展してきた。その中でも最上位のレベルである環境経営の段階は,製品のエコ化から産業のエコ化への段階であり,環境管理会計の本格的取組がされていると指摘している。
 最後に,リトルトンの会計進化説を引用し,その本質はイタリア式資本利益会計に秘められた会計職能(測定,保全,伝達)の再発見であるとし,管理職能の発展なくして伝達機能の発展はないと論じている。そして,環境管理会計の発展が外部環境会計の発展を促進すると結論づけている。

2010forum1_4.jpg■■ パネルディスカッション
 最初に挙げられた議論は,情報量の増大とそれに伴うコスト負担の問題である。古田氏は外部報告書で想定される読者に着目している。すなわち,有価証券報告書は株主や投資家,環境報告書は環境関連の専門家である。また,溝口氏は人的コストと社会コストに着目し,その効果はエコファンド及びCSRファンドへの投資や市場の評価であると述べている。
 次の議論は,本フォーラムのテーマである環境会計と,河野氏の研究テーマである生態会計との関連性に関するものである。河野氏は,生態会計は水・森林・エネルギー資源,CSR,環境会計をすべて含むものであり,そこでは企業以外もすべてシステムであると述べている。
 最後に,外部から環境情報を利用する立場から,比較可能性と正確性に関する議論が行われた。有価証券報告書に環境報告書が含まれると利便性が増すが,その方向性についてどう考えるかという質問に対して,3人の報告者から次のような見解が示された。河野氏は,企業は比較可能性について考えていないとしている。それに対して竹原氏は,比較可能な資料が存在しないために困ったことがあると述べている。また古田氏は,環境情報の利用者が専門家から一般へと広がってきていると指摘している。  ここで所定の時刻になったため,この議論をもってパネルディスカッションを終了することとなった。

2009年度 第3回フォーラム開催記

2009年12月14日|飯島康道 ( 愛知学院大学 )

2009forum3_4.jpg■■ 日本管理会計学会2009年度第3回フォーラムが,2009年11月28日(土)に愛知東邦大学(名 古屋市名東区平和が丘)にて開催された(実行委員長:愛知東邦大学教授・山本正彦氏)。今回のフォーラムは,崎 章浩副会長(明治大学)の司会のもと「商品企画と管理会計‐商品開発力強化への管理会計の貢献‐」という統一テーマに沿って,田中雅康常務理事・前会長(目白大学),谷彰三氏(シャープ株式会社経理本部経理部副参事),渡辺美稔氏(いすゞ自動車株式会社原価企画部VE・TDグループリーダー)の3氏の報告が行われた。

2009forum3_5.jpg■■ まず,田中雅康氏(目白大学)より「製品コンセプトづくりと管理会計」というテーマで報告がなされた。同報告では,製品コンセプトづくり,製品コンセプトの決定活動,標準的売価の設定法,原価見積の方法,製品コンセプトづくりにおける経済性評価について説明がなされた。田中氏によれば,新製品開発の動向として製品企画段階により多くのエネルギーが費やされ,開発設計段階のリードタイムを短縮していく傾向があるので,製品コンセプト段階から管理会計も積極的に関わることが重要であると述べられていた。

2009forum3_6.jpg■■ 次に,谷 彰三氏(シャープ株式会社経理本部経理部副参事)より「製品コンセプト・メーキングの方法-CMVE(Concept Making VE)を活用して-」というテーマで報告がなされた。同報告では,コンセプト・メーキングVE開発の背景,商品企画VEの必要性,コンセプト・メーキングVE概論,コンセプト・メーキングVEの進め方,適用事例について説明がなされた。CMVE(Concept Making VE)とはVEアプローチにより潜在的なニーズを顕在化させる技法であり,本報告ではコンセプト・メーキングVEの進め方を中心に同社の適用事例についても紹介がなされた。

2009forum3_7.jpg■■ 最後に,渡辺美稔氏(いすゞ自動車株式会社原価企画部VE・TDグループリーダー)より「生産性設計支援システム(Design For Assembly)による商品競争力比較と原価低減活動」というテーマで報告がなされた。生産性設計支援システム(DFA)は,製品を設計段階で生産しやすいように支援するソフトウエアで,たとえば組み付け性の定量的な評価,組み付け工数,コストの推定,改善ポイントの提示等設計段階で生産性を評価できることが特徴である。同報告では,生産性設計支援システム(DFA)の概要とその活用事例について紹介がなされた。

■■ 3氏の報告の後,円卓討論をはじめるにあたって報告者のとりまとめとして田中雅康氏より3報告についてのコメントが述べられた後,フロアから活発な質疑応答がなされた。40名を超える参加者にとっても大変有意義な時間となったフォーラムであった。

2009年度 第2回 フォーラム(兼 第28回 九州部会)開催記

2009年7月24日|丸田起大(九州大学)

2009forum2_1.jpg■■ 日本管理会計学会2009年度第2回フォーラム兼第28回九州部会が,2009年7月4日(土)に九州大学経済学部(福岡市東区箱崎)にて開催された(準備委員長:九州大学教授・大下丈平氏)。今回のフォーラムは,九州大学のOBや九州ご出身などいずれも九州にゆかりのある著名な講師陣をそろえ,管理会計研究においても内部統制・内部監査の議論を高めていこうというメッセージを九州から発信する画期的な企画となり,全国から40名を超える研究者・実務家の参加を得た。なお当フォーラムの開催案内や講師の紹介派遣にあたって,社団法人日本内部監査協会より多大なご後援を賜った。記して謝意を表したい。
■■ フォーラムでは西村明氏(別府大学学長,九州大学名誉教授)を座長として,「内部統制と企業経営 ―内部統制は企業経営にどのような影響を与えたか―」という統一論題のもとで,以下の3氏による報告がおこなわれた。

■■ まず富田昭仁氏(監査法人トーマツ マネージャー)から「内部統制報告制度の概要と実務上の対応」と題して,内部統制報告制度の概要,制度の施行にともなう実務上の課題,重要な欠陥の事例などが報告され,内部統制報告制度の構築運用を現場で支える公認会計士の立場から,内部統制報告制度の全体像や日本的な特徴,内部統制制度の構築・施行にあたっての社内での人材不足,リスク・コントロール・マトリクス(RCM)などのツールへの理解不足,および制度への対応における現場の経営者の苦労話などが臨場感をもって紹介された。

2009forum2_2.jpg■■ 次に伊藤龍峰氏(西南学院大学教授)から「内部統制監査をめぐる諸問題」と題して,財務諸表監査の目的と固有の限界,内部統制報告の制度化への歴史的経緯,実態監査と情報監査および会計監査と業務監査の相違点,内部統制の有効性の検証におけるダイレクト・レポーティングとインダイレクト・レポーティングという二つの形態,金融商品取引法における内部統制監査の特徴と問題点などが報告され,監査理論の観点や国際比較の観点から我が国の内部統制報告制度がもつ矛盾点や社会的な非効率性などが指摘された。

■■ 最後に別府正之助氏(中日本高速道路(株)顧問)から「CEOの内部統制への取り組み」と題して,内部統制に対して経営トップの関心が低かった理由,CEOに自覚してもらいたいこと,CEOが今なすべきこと,他社の不正事例などのケーススタディの有効性,不正経理(粉飾決算)の防止法,セグメント別リスク・マネジメントを徹底している総合商社の管理会計システムや業績評価制度の事例などが報告され,内部統制を支える内部監査の豊富なご経験を踏まえて,社員を疑うための内部統制ではなく自律性を高めるためのリスク・マネジメント体制として理解すべきこと,経営者が「居座る」リスクへの対処や監査役会・社外監査役・内部監査人への期待などについて具体的な提言が数多くなされた。

■■ 3氏の報告を受けて,西村座長から「内部統制の現代的視点 -管理会計の視点から-」と題して,フィードフォワード・コントロールをキーワードにしながら,内部統制に対する管理会計の視点からの期待や3氏の報告へのコメントが述べられた後,座長と報告者による円卓討論がおこなわれ,フロアからも研究者だけでなく現場で内部統制・内部監査の実務に携わる実務家の方々から,いまだに根強い監査アレルギーの問題,内部統制が経営者の利益平準化行動の余地を狭めることの是非,内部統制の啓蒙に対する内部監査人資格取得の意義などについて,活発に質疑応答がなされた。

2009年度 第1回フォーラム 開催記

2009年4月11日|大鹿智基氏 ( 早稲田大学 )

2009forum1_1.jpg■■ 2009年4月11日午後2時より,早稲田大学早稲田キャンパスにて,日本管理会計学会2009年度第1回フォーラムが開催された。今回のフォーラムは,田中雅康常務理事・前会長(東京理科大学)の司会のもと,研究者と実務家が統一テーマに沿って報告するという,非常に魅力のあるプログラムであった。
 まず,田坂公氏(共栄大学)より,「原価企画研究アプローチの変遷 -わが国と欧米の文献比較-」というテーマで報告がなされた。わが国の研究では,原価企画の発展にしたがい,それぞれに対応した3つの研究アプローチ(順に,管理工学的アプローチ,原価低減活動アプローチ,戦略的コストマネジメント・アプローチ)が発展してきたことが明らかにされるとともに,それぞれのアプローチの境界を検討する際に,4つのメルクマール(目的・ツール・関連組織・戦略性)を利用できることが主張された。一方,欧米では,3つのアプローチを混在・並列させる形で発展してきたことが,文献研究を通じて確認された。

■■ 次の報告は,吉田栄介氏(慶應義塾大学)による,「原価企画におけるテンション・マネジメント」であった。この報告では,トヨタ自動車におけるケーススタディを基に,高度化した原価企画活動が伝統的設計活動とのテンション(緊張)を生み出すことが説明された。それに対し,マネジメント・コントロール研究からの知見を活かし,テンション(組織に本来的に内在する緊張状態)をダイナミック・テンション(組織業績を高めるテンション)へと仕向けるための,「テンション・マネジメント」の検討が提唱された。

■■ 休憩を挟み,後半は2名の実務家による報告であった。1人目の遠藤豊氏(株式会社小森コーポレーション・利益企画部CE課長)は「小森コーポレーションの原価企画」というテーマの報告をおこなった。そこでは,他社との競合の中で性能の良いものを作ることに注力してきた同社が,結果として「高すぎて買えない」製品を作り出してしまい,原価低減が最重要課題となっていることが指摘された。その状況に対応するため,新製品の企画・開発段階からのコスト作り込みを目指し,技術本部の下に利益企画部を設置していること,そして「人づくり」,「しくみづくり」,「道具づくり」という3つの活動を通して,全社的なVE活動を実践していることなどが紹介された。

■■ 最後は,三枝峰夫氏(いすゞ自動車株式会社・原価企画部長)から「いすゞの原価企画 -原価低減20%へのプロセス-」というテーマで報告があった。同報告では,同社において,従来的な組織の枠組みを越えたCFT(クロスファンクショナルチーム)が,品質・コスト・日程に関する目標達成活動を推進していることが紹介された。さらに,原価企画機能を14機能へ細分化し,個々の目標を設けることで,目標達成への計画・評価が容易になっている様子が示された。これらの施策について,具体的な開発活動を通じた事例が明らかにされ,実際の活用状況を知ることができる報告であった。

■■ それぞれの報告後には,活発な質疑応答がなされ,60名を超える多くの参加者にとっても,非常に有意義な時間となったフォーラムであった。

ホームへ ページトップへ戻る
JAMA
THE JAPANESE ASSOCIATION OF MANAGEMENT ACCOUNTING
Copyright(c) JAMA All Rights Reserved. 当学会へのお問い合わせはこちらのメールアドレスまで