日本管理会計学会
The Japanese Association of Management Accounting
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関西・中部部会

2017年度第31回関西・中部部会&第51回九州部会 開催記

2017年5月 8日|足立俊輔 (下関市立大学)


■■ スライド1.JPG日本管理会計学会2017年度第31回関西・中部部会および第51回九州部会が、2017年5月6日(土)に西南学院大学(福岡市早良区)にて開催された(準備委員長:高野学氏(西南学院大学))。今回の合同部会では、関西・中部・九州以外に関東からもご参加をいただくなど、20名近くの研究者や実務家の参加を得て、活発な質疑応答が展開された。また研究報告に先立ち、関西・中部部会役員会が開催された。

■■ 第1報告は、足立俊輔氏(下関市立大学)より、「病院BSCにおける医療安全の位置づけ」と題する研究報告がなされた。本報告は、病院BSCが医療安全にどのように貢献しているのかを文献レビューに基づいて明らかにすることを目的としたものである。スライド2.JPG
 報告では、医療安全に関連した記述(医療安全項目)が病院BSCに記載された論文をレビューした結果が示され、戦略目標に医療安全項目が記載されている視点は「業務プロセスの視点」と「顧客の視点」が大半であること、「業務プロセスの視点」に記載されている医療安全項目は「医療安全管理体制の強化」の記載数が多いこと、また、重要成功要因や業績評価指標に記載される医療安全項目は「インシデント・アクシデント報告数」の記載数が多いことなどが示された。

■■ 第2報告は、浅川哲郎氏(九州産業大学)より、「米国のオバマ医療制度改革における病院マネジメントシステムの変化」と題する研究報告がなされた。本報告は、新たに就任したトランプ大統領の医療制度改革が、オバマ政権下で立法化された医療保険制度改革法(ACA)をどう継承していくのか、そして、そのことが病院の規模や組織にどのような影響を与えるのかを、報告者の現地調査に基づいて明らかにしようとしたものである。スライド3.JPG
 報告では、トランプ政権下においてもオバマ医療制度改革が継続する可能性が高いこと、医療組織は機能別に分化する、いわゆる「モジュール化」が進む可能性があること、そして、近年浸透しつつある「コンビニエント・ケア」には「アージェント・ケア・センター(総合診療と救急医療の中間医療組織)」と「リテール・クリニック(簡易的な予防医療サービスを提供する医療組織)」の2種類が存在していることが紹介された。報告者によれば、こうした一連の新しい動きは、医療のコストを減少する可能性を秘めていると指摘している。

■■ 第3報告は、島吉伸氏(近畿大学)より、「プロジェクト特性がマネジメント・コントロール・システムに与える影響-コントロール・パッケージの視点から-」と題する研究報告がなされた。本報告は、同一の組織において異なる特徴を持つプロジェクトが実施された場合、利用されるマネジメント・コントロール・システム(MCS)に与える影響をコントロール・パッケージの視点から明らかにすることを目的としたものである。報告では、診療科別原価計算とISO9001がプロジェクトとして採用されている医療組織のケースが紹介された。スライド4.JPG
 当該ケースでは、診療科別原価計算が含まれるMCSでは、医師が組織的価値に配慮させるための信条システムを生み出すために、インタラクティブ・コントロール・システムや診断的コントロール・システムが機能していること、そして、ISO9001が含まれるMCSでは、プロジェクト推進時においては信条システムが機能しており、プロジェクトの定着と効果発揮の場面ではインタラクティブ・コントロールと診断的コントロールが機能していることが示された。

■■ 第4報告は、三浦徹志氏(大阪経済大学)より、「鉄工団地中小企業における経営課題と管理会計思考の適用研究-金属加工業の設備投資、品質・人材・在庫問題を事例として-」と題する研究報告がなされた。本報告は、元請企業への依存度を見直すことや、自立的事業割合を増やそうとする中小製造業にとって、理にかなった経営管理・管理会計とは何かについて、事例研究に基づき明らかにしようとしたものである。スライド5.JPG
 報告で紹介されたA社は、金属部品加工・メッキ一貫生産を事業として行っており、近年の設備投資案として亜鉛のメッキ工程へのロボット・システム導入による工程の自動化やIoT(Internet of Things)化を進められていることが、業界の状況と共に丁寧に説明された。報告では、熟練技術が必要なメッキ工程にロボットによる自動化を行った場合のシミュレーションの計算方法や、IoTシステムを導入した場合のデータ入力時に必要な原価計算や管理会計に必要とされるデータについて、現場のヒアリング調査に基づいて意見が述べられた。

■■ 研究報告会終了後、九州部会の総会が行われた。総会では前年度の会計報告と今年度の九州部会開催の議題が出され、双方とも承認を得た。今年度の九州部会は、第52回大会は7月29日に九州大学にて日本会計研究学会九州部会と合同開催の予定であり、第53回大会は中村学園大学にて11月に開催予定である。
 報告会終了後、開催校のご好意により、懇親会が西南クロスプラザ(ゲストルーム)にて開催された。懇親会は有意義な研究交流の場となり、盛況のうちに大会は終了した。

2016年度 第2回関西・中部部会 開催記

2016年11月 9日|香川大学 中村正伸

■■2016年度第2回関西・中部部会が.10月22日(土)に香川大学にて開催された(準備委員長:朴鏡杓(香川大学),準備委員:宮脇秀貴(同),中村正伸(同)).関東その他地域から学会員諸氏,実務家の方々の参加を頂いた(院生・学生含め出席者21名).4つの自由論題報告と企業講演を行い,活発な質疑応答が行われた.

第1報告は,近藤隆史氏(京都産業大学)1.jpg・石光裕氏(同)による,「マネジメント・コントロール研究におけるテキスト分析の可能性の検討」であった.企業レベルのマネジメント・コントロールの財務成果への影響を,有価証券報告書の定性的・非財務データ情報を用いて定量的に検証することを目的に,テキスト分析をマネジメント・コントロール研究へ適用しようとする研究であった.先行研究に基づき仮説として,1:トップマネージャーの環境不確実性の認識の程度が,組織全体のマネジメント・コントロールへの意識の程度へ正の相関を持つこと,2:トップマネージャーのマネジメント・コントロールに対する意識の高さが将来業績に結び付くこと,を設定した上で,分析手法として,計量テキスト分析と呼ばれる,質的データを数値化して計量的分析を適用,データを整理・分析する方法が採用された.分析対象として,国内自動車メーカー10社の2004年3月期から2016年3月期決算までの有価証券報告書を対象とし,有価証券報告書の中でも,「事業の状況」項目の「事業等のリスク」,「提出会社の状況」項目の「コーポレートガバナンスの状況」に出現する単語に注目し,MeCabを解析ソフトとして採用して形態素解析を行った.まず語彙の多様性(複雑性)を意味するTTRを測定した後に,マネジメント・コントロールに関係する単語を抽出した上で,出現回数を考慮した重み付け出現頻度(TF-IDF)を算定,文章の長さを調整しての正規化まで行った上で,統計解析を行った.結果として仮説1は支持されるものの,不確実性への認識水準が上昇しても,3年後にはマネジメント・コントロールへの意識は低下すること,仮説2についても概ね支持されるものの,トップの不確実性の認知からマネジメント・コントロールへの意識の高まり,財務上の成果までは3年程度のラグが見られたとのことであった.最後に今後の課題として,今回の分析対象に含まれていない有価証券報告書内の記載事項を分析対象にすること,形態素間の共起・ネットワークを考慮したマネジメント・コントロール上のキーワードの精緻化の必要性等を指摘した上で,有価証券報告書をもとにした計量テキスト分析のマネジメント・コントロール研究への適用の可能性が示されたとして,報告を締め括った.

第2報告は,大西靖氏(関西大学)2.jpgによる「持続可能性報告による組織の正統化」であった。環境報告や統合報告をその内容とする持続可能性報告を対象とする定量的研究について,組織についての正統性理論の観点からレビューを行い,その現状と課題を明らかにする研究であった.環境情報開示の説明を巡って,正統性理論と自発的情報開示理論の間で対立が見られるとした上で,まず正統性理論に基づく定量的研究のレビューを行い,企業が情報開示を行うことで,社会のその企業への認識を変化させようとしていることを前提に研究が進められていることを指摘した上で,環境パフォーマンスの高低と財務情報・非財務情報の開示量の間に関連性が見られるといった研究や,環境パフォーマンス,環境情報開示量と環境レピュテーションの間の関連性についての研究が進められていることを指摘している.一方自発的情報開示理論に基づく定量的研究については,完全情報開示均衡,部分情報開示均衡の2つの均衡についての検討をベースに研究が進められていることが指摘されている.この両者の研究を踏まえ,企業の環境パフォーマンス状況,正統化の圧力,制度的側面の影響度合いの3者の関連をさらに分析していくことの必要性が述べられた.具体的な今後の研究の方向性としては,組織における正統性理論そのものを再度検討する余地があり,制度論を援用しながら,組織の正統化のための手段として持続可能性報告の同型化に着目する必要があること,さらにその前提にある産業横断的な組織フィールドについても,その内容や形成プロセスにも着目する必要があることが言及され,報告が締め括られた.

第3報告は,宮脇秀貴氏(香川大学)3.jpgによる「エンパワーメント研究のブラックボックスの透明化」であった.管理会計分野でエンパワーメント研究が増えてきているものの,エンパワーメントそのものについては所与のものとして扱われ,明確なエンパワーメントの定義をすることなく,その効果が考察されてきたことが問題であることが指摘された上で,管理会計分野,および管理会計分野以外での経営学分野等でのエンパワーメント研究を踏まえて,そもそものエンパワーメントの定義を行った上で,関係性概念と心理的概念から構成されるエンパワーメント概念とフレームワーク構築を目的とする研究であった.この研究は論題にもあるように,組織成員間,組織成員とマネジメント,およびそれらと組織単位の関係性の変容が起こると,なぜ彼らの心理状態を変えることができるのかは,ブラックボックス化されたままであり,関係性概念が心理的概念に与える影響,心理的概念そのものに関する研究が残ったままであり,エンパワーメントされた組織成員がなぜ行動を起こすのか,その部分を今後研究する必要があるとする.この課題に取り組む手段の一つとして提示されているのは,脳科学を用いた無意識への働きかけであり,この仕組みを解明・活用することで,従来からエンパワーメント研究が対象にしてきた「関係性の変容→心理状態の変化」の範囲を超えて「関係性の変容→心理状態の変化→行動」に至る一連のメカニズムを明らかにできる可能性が高まるとする.彼は今後の具体的に研究について,関係性概念と心理的概念の関係性の精緻化,心理的概念におけるメカニズムの詳細な分析,企業の現場での参与観察,インタビュー等を通じて,関係性の変容から心理的状態の変化,さらに行動に至るまでのプロセスを解明する必要があるとして,報告を締めくくった.

第4報告は,吉田栄介氏(慶應義塾大学)4.jpg,桝谷奎太氏(慶應義塾大学大学院商学研究科後期博士課程)による「予算目標の厳格度と業績評価方法が財務業績におよぼす影響」であった.公式的なルールに基づく業績評価の限界が指摘される中で,評価者の主観的な業績評価が取り扱われ,定性的な非財務指標の利用,業績指標の柔軟な重み付け,裁量的な調整が着目され,主観的業績評価の効果が研究対象になってきていることに言及した上で,財務的な達成目標も評価対象としては存続しており,予算のような財務目標の厳格度と主観的な業績評価がどのように関係しあい財務業績にどのような影響を与えるかを実証的に解明することを目的とする研究であった.環境の不確実性,主観的業績評価,予算目標の厳格度(硬直性)に着目した先行研究を踏まえ,仮説として「主観的業績評価は,環境不確実性が高く,予算目標の厳格度が低い状況で,業績評価を高める」が設定され,東証一部1,822社を対象に郵送質問票調査が行われた.結果として,環境の不確実性のようなコンテクスト要因のみでなく予算目標の厳格度も主観的業績評価の効果に影響を及ぼすこと,主観的業績評価がその内容によっては財務業績に影響を及ぼすこと,業績評価のスタイルと予算厳格度を区分して財務業績への影響を考察する必要があること,が明らかになったとする.最後に,限界,また今後の研究課題として,主観的業績評価と客観的業績評価の組み合わせ効果をどう分析に組み込むか,財務業績と組織階層の関係におけるノイズをどう考慮するか,海外企業へ如何に展開して一般化するか,といった点が言及され,報告が締め括られた.

企業講演は,冨岡徹也氏(あなぶき興kouen.jpg産(株)専務取締役)による「あなぶき流グループ経営と予実分析」であった.あなぶきグループの経営理念,理念実践の為の基本路線と価値観,事業概要,多角化方針や事業ポートフォリオをまず説明された.その中で,従来からの不動産業を柱としながらも,将来に向けてのシルバー,医療,エネルギー,リフォーム等を今後の事業の柱として成長させていくことに注力している旨報告された.また財務ハイライトも紹介されたが,ROEに執着せず,短期的な利益を求めるだけでなく,将来も見据えて投資・利益を考えていることが重要である旨説明され,総資本回転率,ROA,自己資本比率,有利子負債比率を重要な指標として位置付けている旨も説明された.続いて,予実管理と経営分析についての実践を発表された.3年間を期間として策定される中期経営計画は毎年ローリング方式で見直され,常に3年先のゴールを意識した最新計画をベースに,年間計画が月次ベースで管理されるというのが,基本的な経営計画・予算の管理サイクルであることが示された.予実管理は毎月の取締役会での報告をベースに行われ,四半期に一度の経営会議にて四半期報告・通期見込みが分析され,中期利益計画の見直しが図られるとのことであった.しかし同じ数字であっても,その数字をどう見るかによって経営の判断も違ってくる,との実態が紹介された.また企業そのものがオーナー企業であるとともに急激に成長してきたので,次世代の経営層を含む人材育成には特に注力していることも報告された.最後に会社の存続について,社会に価値を提供していく限り会社は存続していくと述べられるとともに,新規事業については黒字見通しが確実かどうかを見極めたうえで,難しい撤退の判断をしていく必要があるとして,発表を締め括られた.

2016年度 第1回関西・中部部会 開催記

2016年7月11日|大阪経済大学 三浦徹志

■■2016年度第1回関西・中部部会が、5月21日(土)に大阪経済大学にて13:10より開催された(準備委員長:三浦徹志(大阪経済大学),準備委員:浅田拓史(同))。関東からの学会員諸氏、実務家の方々の参加をいただいた(院生・学生を含め出席者34名)。3つの自由論題報告と企業講演を行い、いずれも活発な質疑応答があった。

kansai201611.jpg第1報告は,岡田朋之氏(関西大学会計専門職大学院生)による、「企業価値評価法の一考察―行動ファイナンスから考える意思決定―(試論)」。一般的な企業価値形成・事業価値評価技法とその基礎となっているCAPM(「資本資産(株式・債権)の評価モデル」)を元にした思考に対して、経営判断・投資行動に内在する(可能性のある)アノマリ―(変則性)の体系(行動ファイナンス)に着目して考察が加えられた。伝統的市場観では価格機構によってノイズは市場で合理的に調整されると仮定されているが、現実の経営において資本コストを上回るキャッシュフローをあげようとする企業価値経営観では、リスク予測、市場予測(β)とリスクプレミアム、キャッシュインフローをベースに具体的な事業の現在価値評価を行う。将来業績予測に際しては、不確実性が含まれた独自の経営判断でプレミアムを認識する。非財務情報、情報の非対称性、プリンシパル・エージェント問題等を前提として価格付けが行われるのである。現実の経営意思決定は過去業績延長の判断の上に意思的、創造的な戦略的行動が行われる。
 シャープやトヨタなど著名な事例考察により、シナリオ分析等で加味すべき問題としてプロスペクト理論、サンクコスト効果、心の保守性、ギャンブラーのジレンマなど行動心理学の知見による政策判断の特性、偏り(歪み)の見極めの重要性が検討された。

第2報告は,井上秀一氏(追手門学院kansai201612.jpg大学営学部)による「医療機関の管理会計システムとミドルマネジメント―ある地域の中核医療機関を対象とした事例研究―」。医療機関の管理会計システムにおけるミドルマネジメントの機能の重要性に注目し、ミドルマネジメントはどのような役割を、どのようにして果たしているのかについて詳細な検討、分析が行われた。本研究では,医療専門職のミドルマネジメント(例えば診療科部長や看護師長等)がトップとロワーの間でどのように組織内の調整を行っているのかについて焦点が当てられている。先行研究で,医療機関の管理会計システムにおけるミドルマネジメントの役割として,トップから現場への会計的な影響を吸収する「吸収役」,あるいはトッ プと現場の橋渡しを行う「双方向の窓」という 2 つの役割があることが指摘されていることを受けて,医療機関への参与観察をはじめとする精緻なリサーチデザインによるエスノグラフィックなアプローチを採用し,ミドルマネジメントがどのようにして「吸収役」あるいは「双方向の窓」としての役割を果たしながら組織内を調整しているのか,そのプロセスを明らかにした。医療機関の組織的特徴として、専門知識によるアイデンティティが強くこれに基づく専門職集団が形成されることが一般的にみられる。そこでは、効率性・採算性を求める管理会計システムはコンフリクトを生みやすく、また専門職活動は外部の規範がはたらき、医療機関としての目標と専門職集団の目標を一致させることの困難さが指摘されてきた。この、トップが関与できない活動が多くある現実に対して、管理会計のシステムの導入とその運用にミドルマネジメントが果たす役割の重要性と期待が大きいことが首肯される。

第3報告は、和田淳蔵氏(岡山大学)による「利kansai201613.jpg益管理論―史的分析を踏まえて―」である。 本報告では,『管理・コントロール』の現代的解釈を管理会計の史的過程から探索している。当該『管理』問題を、歴代研究を踏まえ労務管理にはじまる「原価管理」と、財務管理に由来する「利益管理」の系譜に分け、それぞれが付託された機能を考察した上で、両者が管理会計として融合・統合される史的展開を解明。原価計算の要求事由と利益計算のそれが標準化問題を通じて会計的特質を備えた事情を明らかにし、標準原価計算の損益計算への全面適応として予算管理の制度的成立に着目し、この契機を1920年?1930年代末葉の米国における間接費、固定費の管理問題の検討によって詳らかにする。
 課題として、標準原価および標準原価計算、予算管理、直接原価計算、投資利益率管理、損益分岐点分析、さらに近年の原価企画、ABC、BSC等の技法を通底する論理の探索を視野に、管理会計の機能的側面である利益管理論の歴史的経緯を探り、副材として標準原価計算を現代管理会計の源流とみて標準原価と予算統制の史的発展過程に焦点を当てる。両者に関連する操業度問題、間接費管理および変動費予算等が考察され、原価管理が科学的管理に端を発する課業管理・生産管理の系譜を引き、予算管理・財務管理機能は会計の本来的属性として損益計算システムにより収益・費用・利益の標準化へと結実した点が示唆される。
 論究の里標に標準原価計算の制度的定立者としてG.C.ハリソンの論考を再評価し、利益(予算)管理主導の趣旨を見い出し、管理会計史の観点からの意義を強調する。ハリソン標準原価論により、実は標準原価の計算制度(原価管理機能)としての完成が同時に利益の標準化(予算制度)を招来し、一方、利益の標準化への手法の制度化と差異分析の整備によって原価管理機能を果たす情報属性の役割は後退して、組織的業績管理・評価と責任会計のあり方へ焦点が移る。製造間接費の標準化過程で固定費、変動費の分離、操業度水準変動による原価差異額の賦課対象(操業度問題;生産主体から販売主体時代への移行)、不働費の期間損益計算による解消、管理可能費・不能費の認識など、すでに原価の標準化対象である製造領域の管理機能を超えて、関心は資本効率の問題としての利益の標準化、利益管理論へと向かいつつあったことが論述された。

企業講演は,井上誠氏((株kansai201614.jpg)中村超硬代表取締役社長)による「先進的な製品応用技術(デバイス・テクノロジ)開発と経営戦略・業績管理―2015IPO―」であった。講演では,大阪府作成の有望企業紹介・プロモーションビデオを上映のうえ,1954操業、1964創設の会社概要および超硬合金の切断加工技術を基礎とした半世紀にわたる特色ある部品製作、実装装置・機器開発と積極的経営展開の歴史を紹介いただいた。
 ソニーの技術者出身の中村社長が率いる同社デバイス・テクノロジ開発は、耐摩耗部品事業、超精密研磨による内径測定用ゲージ製作、焼結ダイアモンド加工技術による素材提案、微小ダイアモンド部品を真空吸着し基板に配列させる電子部品吸着ノズルの量産、ダイアモンド粒を加工したワイヤーによるソーラー部品・太陽電池用ウエハーの世界最速切断(スライス)事業、さらに極小ノズルのノウハウを用いた医療機器製造など、シーズとコア技術を川下ニーズに丁寧に応用し横展開していく積極的かつ堅実な営業戦略が推進されていることが了解される。同時に長期にわたってデジタル化の波や景気変動を乗り越えられる「泥臭い事業の嗅覚とチャレンジ精神の重要性」を旨とする経営姿勢、社内の「自由闊達な人材育成方針」、昨年度IPOを成功させ高い評価を得るなどの「積極的な資本政策」等、技術・経営両面の経営努力について熱のこもったお話を伺うことができた。

2015年度 第2回関西・中部部会 開催記

2015年10月20日|京都産業大学 近藤隆史

2015kansai2.png■■ 2015年10月17日(土)に京都産業大学にて第二回関西・中部部会が13:30より同大学経営学部長の中井透氏の開会の挨拶により開会された。部会は3つの自由論題報告に加え企業講演であった。

第1報告は,濱村純平氏(神戸大学大学院博士課程)による「Unobservable transfer price exceeds marginal costs under relative performance evaluation to CEO」であった。競争に直面している企業の振替価格水準について数理モデルを用いた分析結果が報告された。分析の焦点は,業績評価が組み込まれた振替価格決定者に対する業績評価が内生的に決定され,かつ競争相手の振替価格水準が観察不可能な場合にどのような振替価格水準を企業が選択するかについてであった。戦略的振替価格研究に関する先行研究の限界を指摘し,分析には価格競争の数理モデルが採用され,意思決定者に対する相対的業績評価が導入された。分析の結果,競争相手の振替価格が観察不可能な場合であっても限界費用を上回る振替価格が選択されることが示された。

第2報告は,川?紘宗氏(高松大学)による「連邦政府予算とMcKinseyのBudgetary Control:社会的背景からみた予算制度」であった。企業予算を検討する際に何故に政府予算への言及が必要であり,また,政府予算と一般の企業予算とはどのよう関係があるのかについて,アメリカ社会固有の状況を中心に報告された。先行研究の詳細なレビューに加え,McKinseyと政府の予算制度の比較検討を通じて,予算についての政府と一般企業の密接な関係については,両者の予算に関する問題の共通性のほかに,それに対して,政府が標準概念を用いた支出管理に基づく新たな予算制度を構築したことが大きく影響しているという知見が提示された。

第3報告は,石光裕氏(京都産業大学)と近藤隆史氏(京都産業大学)による「マネジメント・コントロールと企業の固有利益」であった。マネジメント・コントロール要因が企業の非共通性にどのような影響を与えているのかのアーカイバルデータを用いた分析結果が報告された。分析は,利益の非共通性を測定した上で,先行研究より非共通性と想定される規定要因ごとに両者の関係を検討し,非共通性を従属変数,その規定要因を独立変数とした回帰分析を行った。結果,特に,業績連動型報酬制が負に有意であったことから,業績評価システムによるマネジメント・コントロール要因と企業の非共通性との関係が示唆された。ただし,ストックオプションについては有意でないものの正の効果があることから,今後統合的に説明でき分析モデルの必要性が指摘された。

企業講演は,東充延氏(ホソカワミクロン株式会社 企画管理本部 経営企画部)による「ホソカワミクロンのM&Aと海外子会社および国内事業管理」であった。まず,来年創業100年を迎える同社の概要やコアとなる粉体技術について説明された。加えて,おもにM&Aにより構築されてきた同社のグローバルネットワークの経緯とその現状,それらを踏まえたグループ全体の経営管理のシステムについて,グループ経営と国内事業運営の意思決定を担う経営会議体,事業計画策定プロセスが,予算編成・管理の観点から詳細に報告された。特に,海外ユニットへの大幅な権限委譲による任せる経営と買収した企業、技術、人、文化などを尊重し、融合を図る"フュージョン経営"が特徴として示された。

2015年度 第1回 関西・中部部会 開催記

2015年6月 1日|窪田祐一(南山大学)

■■日本管理会計学会2015年度第1回関西・中部部会が,2015年5月23日(土)に南山大学名古屋キャンパスB棟(名古屋市昭和区)にて開催された(準備委員長:窪田祐一(南山大学))。今回の部会には,関西・中部だけでなく関東も含め,研究者・実務家にご参加をいただきました(参加者27名)。いずれの報告でも活発な質疑応答が行われた。

第1報告は,劉美玲氏(神戸大学大学院博士課程)ならびに梶原武久氏(神戸大学大学院)による「コンフィギュレーションとしてのマネジメントコントロールとfsQCA(fuzzy-set Qualitative Comparative Analysis)」であった。報告は,特定の結果を生み出す原因となる要因の組み合わせを示すコンフィギュレーションという概念を用い,多様なマネジメントコントロールの組み合わせをめぐる因果関係を考察し,研究方法としてfsQCAの有用性を示すものであった。
 まず,文献レビューのもと,コンフィギュレーションとしてのマネジメントコントロールにみられる「因果関係の特徴」を整理された。続いて,これまでの先行研究の「研究方法」を確認することで,質的研究ならびに量的研究の双方に長所と限界があることが示された。それを受け,質的研究と量的研究をつなぐ質的比較研究(QCA),なかでもfsQCAという研究方法がコンフィギュレーションとしてのマネジメントコントロールを分析するのに有用であると指摘された。ただし,fsQCA適用する場合にも,克服すべき課題があることも示された。

第2報告は,浅池秀幸氏(リゾートトラスト(株)経理部・税理士)による「事務事業評価のための予算管理システム―三勘定簿記を前提として―」であった。報告では,水道事業の適正な行政評価にはコスト評価が必要であり,事務事業評価のためには3表(貸借対照表・損益計算書・収支計算書)を勘定メカニズムとして自動的に連動させる3勘定簿記の計算構造が必要であると主張された。
 具体的には,事務事業別の予算差異分析のために,活動基準原価計算を導入して事務事業別のコスト把握を行い,財源の観点から事務事業別の収支計算が必要であることが示された。投入された性質別資源を事務事業別の勘定に変換し,そのコスト算定のために活動基準原価計算を用いる。また,事務事業別予算の執行プロセスが可視化されることで,その事業の行政評価が適正に行われる。報告では,収支・損益の両面から事務事業評価単位と予算編成単位を対応させるために,資源コストから事務事業別コストへの変換フローが示され,予算へのフィードバックが行われることを主張された。そして,3勘定簿記システム上の会計処理が明示され実務上の有効性について詳しく紹介された。

第3報告は,河田信氏(椙山女学園大学)による「『ジャスト・イン・タイム経営』導入の成功率向上に関する一考察―『流れ創り』における現実的課題へのアプローチ―」であった。報告では,まず「よりよい流れ創り」を目指すJIT経営の原点が確認された。流れを創るとは,モノ作りにおいて一気通貫・整流化で「よどみなくモノが流れる」ことである。「機械(人)を遊ばせてはならない」から「物を寝かせてはならない」へ組織の文化遺伝子を切り替える必要があると説明された。そのうえで,定量評価のための会計指標やKPIなどが提示された。加えて,流れ創りの阻害要因となる文化遺伝子を診断するチェックシートをはじめとして,多様な経営ツールが紹介された。現代の経営環境では,部分最適観を克服し,「本社力」「現場力」「IT力」の連携のとれた「全社最適JIT経営システム」を,異部門間の異見を戦わせながら全体最適のロジックのもとで設計していく。なかでも会計側で,全部原価計算の枠組みのなかで,製造間接費の配賦方法をリードタイム基準に読み替えることによって現場の流れ創りを支援する。このような会計の支援によってJIT成功率を画期的に高めることができると主張された。

企業講演は,水谷稔氏((株)マルト水谷代表取締役副社長)による「『速達生』導入プロモーション(第6回日本マーケティング大賞奨励賞)」であった。講演では,プロモーションビデオ上映のうえ,会社概要を説明いただいた。その後,販売戦略(ジャスト・イン・タイムの導入),営業戦略,人材戦略などの会社の取り組みを紹介いただいた。マルト水谷では,鮮度を重視する流通システムを確立するために,返品再販を中止し,パートナーをボランタリー・チェーン化している。そのような経営改革のもとで,速く届くことが直感的に分かる『速達生』というシンボル・マークを用いた具体的なプロモーション活動についてご紹介いただいた。

2014年度 第2回 関西・中部部会 開催記

2014年12月 4日|緒方勇(関西学院大学)

■■日本管理会計学会2014年度第1回関西・中部部会が、2014年11月15日(土)に関西学院大学上ケ原キャンパス G号館(兵庫県西宮市)にて開催された(準備委員長:徳崎進氏(関西学院大学))。今回の部会では、中国・四国・北陸・中部などのほかに、関東からご参加下さる方もおり、参加者は全体で21名であった。いずれの報告でも、研究報告の後には活発な質疑応答が行われた。

■■統一論題関連セッション「経営情報とマネジメント」
■第1報告 伊佐田 文彦氏(関西大学)
     「企業の社会性と収益性に関する予備的研究:電機業界の事例をもとに」
 本報告は、民間企業が行っているサステナビリティ活動が、長期的に企業収益に貢献しているか否かを実証的に調査したものである。企業が行うCSR活動と企業収益との関係については、これまで様々な研究が行われてきたが、その結果は、正の相関とするものから、負の相関、そして無相関とするものまであり、全くのばらばらであった。伊佐田氏は、この先行研究の様々な結果はCSR活動の中には企業収益に貢献する活動もあれば、そうでない活動も含まれているからである、との考えに基づき、CSR活動の中でもとりわけ企業収益に直結していると思われるサステナビリティ活動と企業収益との関連性についての調査結果を報告された。

■第2報告 平山 賢二氏(株式会社アットストリーム会長)
     「業務改革のためのKPIマネジメント:
      業務の可視化および重要業績指標による業務プロセス改革に関する研究」
 本報告は、業務プロセス改革の現場において具体的にどのような課題があり、またそれに対してどのような解決が行われているのかについて、実際にコンサルティングを行っている専門家の立場から説明したものである。近年の日本企業の海外進出では、生産活動の移転にとどまらず、生産管理、購買、販売から売掛金の回収まで、現地企業の担当する業務範囲が次第に拡大している。そのような状況では国内事業と海外事業を一体で考えるために業務プロセスを改革する必要がある。平山氏は、この改革を効率的・効果的に進めるためには、効率的・効果的な現状業務の可視化、業務プロセス改革に最適な重要業績指標の設定、および戦略・戦術に紐づいた業務プロセス改革対象業務の抽出、の3要素が重要であると指摘され、また実際のコンサルティング活動で使われている経営ツールの実演も行われた。

■■自由論題
■第1報告 東 壮一郎氏(関西学院大学大学院生)
     「半導体企業の設備投資に関する実証研究:日米半導体協定の影響について」
 本報告は、日本の半導体企業の設備投資がどのように行われてきたか、特に1986年から1996年まで締結されていた日米半導体協定が日本企業の設備投資にどのような影響を与えたかについて実証的に調査したものである。半導体市場は、40年以上にわたって継続的に成長している、習熟効果による価格低下が激しい、4年程度で好不況が周期的に変化する、技術進歩が激しい、などの特徴を持ち、その結果として継続的な多額の設備投資が必要な市場となっている。東氏は、1986年から1996年まで締結されていた日米半導体協定が日本半導体企業の設備投資の意思決定に与えた影響についての調査結果を報告された。

■第2報告 佐久間 智広氏(神戸大学大学院生) 安酸 建二氏(近畿大学)
      三矢 裕氏(神戸大学)
     「組織内で行われる実体的利益調整行動:
      ビジネスユニットレベルで生じるコストの調整に関する実証研究」
 本報告は、企業組織内部のマネージャーが利益調整を行っているかどうかを調査したものであり、三氏を代表して佐久間智広氏が報告された。企業は様々な理由により、利益を増大(減少)させて利益を調整するインセンティブを持っている。このような利益調整行動は、経営者に止まらず、組織内部のマネージャーも行っている可能性がある。例えば、目標設定に前期業績を用いた場合、良い業績を上げた翌期には目標業績が引き上げられてしまう。これを避けるため、組織内部のマネージャーは、目標値を達成した場合、それ以上業績を上げようとはしなくなるかもしれない(ラチェット効果)。佐久間氏は、インストアベーカリー社のデータを調査し、店長がこのラチェット効果に基づいた利益調整行動を行っているかどうかを分析した結果を報告された。

■第3報告 朴 鏡杓(香川大学)
     「環境に配慮した製品開発と原価企画:質問票調査による実態分析」
 本報告は、原価企画活動において環境コストの考慮を促進する要因を探索し、また環境に配慮した原価企画活動とその効果について分析したものである。原価企画の対象とすべき原価は、理想的には、メーカーとユーザーの双方で発生する全ライフサイクルコストであるにもかかわらず、実際には環境コストはあまり考慮されないことが多い。朴氏は、東証一部上場の機械、精密機器、電気機器、輸送用機器に属する企業への質問票調査を行い、環境コストの内部化にはプロアクティブな企業、サプライヤーとの協力関係、3R設計を重視する企業、といった要因が重要とする分析結果を報告された。

2014年度 第1回関西・中部部会&第42回九州部会 開催記

2014年4月21日|足立俊輔(下関市立大学)

■■ 日本管理会計学会2014年度第1回関西・中部部2014kansai1_4.JPG会及び第42回九州部会が、2014年4月19日(土)に下関市立大学(下関市大学町)にて開催された(準備委員長:島田美智子氏(下関市立大学教授))。今回の合同部会では、関西・中部・九州以外に関東からもご参加をいただくなど、20名近くの研究者や実務家の参加を得て、活発な質疑応答が展開された。また研究報告に先立ち、関西・中部部会役員会が開催された。

■■  第1報告は、水島多美也氏(中村学園大学)より、「アメーバ経営における時間当り採算での時間の意味」と題する研究報告がなされた。報告は、京セラアメーバ経営を対象に、1.どのような時間が扱われているのか、2.時間と管理会計・原価計算との関係、3.業績評価会計や意思決定会計といった管理会計体系論からの検討の3点を、文献レビューに基づき明らかにしようとしたものである。2014kansai1_1.JPG
 報告では、1.アメーバ経営の「総時間」には、「共通時間」や「振替時間」が加味されているため、「時間」は広範な概念となっていること、2.各アメーバだけの指標ではなく、全社的な視点から時間当り採算を考えなければならないため、「利益連鎖管理」や「速度連鎖効果」の概念が存在していること、3.期間計画の重要な要素として時間が使われていることから、時間を中心に業績評価会計や意思決定会計が展開されていることが指摘された。

■■ 第2報告は、岡本健一氏(タスクサポート株式会社)より、「小規模事業者への管理会計の仕組みの導入の実情」と題する研究報告がなされた。本報告は、小規模事業者に管理会計の仕組みを導入させるにあたり生じる問題点と、その具体的な解決策やポイントが提示された。  大企業で導入される高度な管理会計システムは、小規模事業者にとってコストと手間がかかり導入は難しいものの、部門別独立採算制でサブリーダーを育成することや、事業の採算性をあげて会社2014kansai1_2.JPGを生存させることは必要不可欠であるため、管理会計システム導入は必要である。
 報告では、こうした時間・スタッフ・資金の面で苦労する小規模事業者でも管理会計の導入に意欲をもたせるためには、「1人時間当り粗利」を用いるなど、分かりやすく感覚がつかみやすい指標を実際に提示することの重要性が指摘され、また、そうした資料を作成するための会計ソフトが紹介された。

■■ 第3報告は、島田美智子氏(下関市立大学)より、「財務報告の"Managerialisation"と会計変化の今日的意味ーZambon [2011]の解釈を通じてー」と題する研究報告がなされた。本報告は、Zambon [2011]の所説を手がかりとしながら、財務報告と管理会計の関連性に関する検討を新しいディメンジョンで展開することを目的として、「財務報告と管理会計の相互作用的進化」の現状について論点整理を行い、当該現状の今後の展開方向を洞察しようとしたものである。
 報告では、財務報告の"Managerialisation"の諸側面とその進展過程、財務報告の"Managerialisation"の外的作用因についてのZambon [2011]2014kansai1_3.JPGの解釈が説明された上で、Zambon [2011]の問題提起が有する含意として、1.財務報告の"Managerialisation"が不可避的な現象であるとするならば、当該現象の進展を前提としたうえで、財務報告のレレバンス・リゲインに向けた制度設計を構想する必要があることや、2.財務報告と管理会計が密接に絡み合う近年の会計変化は、財務報告の中心的問題点を改めて炙り出し、財務報告の概念と役割の再定義が求められていることなどが、報告者の総括的な解釈として提示された。

■■ 研究報告会の後、大学生協にて懇親会が開催され、実りある交流の場となった。

2013年度 第2回関西・中部部会 開催記

2013年11月 3日|澤邉紀生(京都大学)

2013kansai2.png■■ 2013年度第2回日本管理会計学会関西・中部部会が2013年10月26日(土)京都大学において開催された。当日は、小菅正伸部会長の挨拶の後、自由論題2報告、特別講演と連動した企画セッション「イノベーションと管理会計」での2報告,トヨタ自動車株式会社広報部担当部長土井正己氏(肩書きは報告時点)による特別講演「トヨタのイノベーション・マネジメント」が発表された。今回は,原価計算研究学会関西部会との合同での開催と言うこともあり,関西・中部以外に関東・九州・東北や海外からもご参加をいただくなど、89名の研究者や実務家の参加を得て、活発な質疑応答が展開された。また研究報告に先立ち、関西・中部部会役員会が開催された。

■■ 第1報告は、神戸大学博士後期課程の佐久間智広氏による「小売店のコスト変動分析 - マネジャーの個人差が超すと変動に及ぼす影響?-」であった。この報告では、マネジャーの個人属性の違いは業績に優位な影響を与えるのかという問題について、パンの製造・販売を行うA社における店舗データを利用した定量的分析を行った結果が報告された。分析の結果、マネジャーの個人差がコスト変動に有意に関係しており、マネジャーの個人差が業績に与える影響が大きいことが示唆された。質疑応答では、プロフィットセンターの業績をコスト変動で捉える意義や、ビジネスユニットレベルで個人差が業績に影響を及ぼす管理会計的なインプリケーションについて活発な議論が行われた。

■■ 第2報告は、山形大学の柊紫乃氏によって「山形県米沢地区における地域連携の特徴と地域イノベーション活性化の試み」であった。この報告では、企業の持続可能性を担保する自己革新能力が、管理会計的なPDCAサイクルの累積的効果として生じると考え、中小企業におけるPDCAサイクルの確立や活用に、地域のビジネス・エコシステムがどのような影響を及ぼしているのか、山形県米沢地区を対象とした調査について報告が行われた。具体的な研究対象としては、有機エレクトロニクス技術の発展をてがかりに、近年の米沢地区におけるビジネスエコシステムの生成・発展について、産官学金(融)の連携のパターンの深化が説明された。そのなかで、大学が軸となって、産業界・パブリックセクター・地域金融機関を巻き込んで、事業の採算可能性を視野に入れた研究開発活動が行われていることが紹介された。質疑応答では、大学の研究センターが軸となって、研究シーズだけでなく市場ニーズも視野に入れた研究開発や事業活動が行われるようになった経緯や、それを支える能力について議論が行われるとともに、ビジネス・エコシステムとその中の企業の関係について活発な議論が行われた。

■■ 第3報告は、京都大学経済学研究科の市原勇一氏より「両利きの経営を実現するマネジメント・コントロール・システムに関する考察」であった。問題意識として「なぜ優良企業が失敗するのか?」と「老舗企業がなぜ持続しているのか?」という一見相反する現実についての注意が示されたうえで、「成功の罠」や「イノベーションのジレンマ」から免れるため、経営学において提唱されている「両利きの経営」と、Simonsの「4つのコントロールレバー」を統合する方向性について展望が示された。「両利きの経営」と「4つのコントロールレバー」を統合することで、両利きの経営を可能にする組織的特徴がマネジメント・コントロール・システムの活用によって形成されたり、その効果が促進されたりする可能性があることが示唆された。質疑応答では、4つのコントロールレバーに関する先行実証研究の解釈や、その解釈と今回の検討結果との関連などについて活発な議論が行われた。

第4報告は、広島経済大学の天王寺谷達将氏による「イノベーションを促進する管理会計の役割の再考」であった。Simons(1987,1990,1995)に代表されるイノベーションと管理会計の関係性に関するメインストリームの研究(Davila et al, 2009)を批判的に検討したうえで、管理会計研究の本来の関心と合致した粒度で研究を行うための枠組みをアクターネットワーク理論に依拠して構築する展望が示された。Galbraith(1977)に依拠したSimonsの不確実性理解では、イノベーションにおいて遂行される管理会計手法には焦点をあてることができていないという問題点が指摘され,会計計算によって創り出された情報と、経営資源などの実体との関係性を把握するためにアクターネットワーク理論を援用することが提唱された。質疑応答では、分析単位として「管理会計技法」と「管理会計情報」のいずれを想定するのが妥当であるのかといった論点や,「資源動員の正当化プロセスにおける管理会計の役割」と「緊張を生み出す管理会計の役割」の間の関係をどう理解しているかといった問題について活発な議論が行われた。

■■ 特別講演は、トヨタ自動車 株式会社広報部担当部長土井正己氏による「トヨタのイノベーション・マネジメント」であった。トヨタのイノベーションの考え方を理解するうえで,レイモンド・ヴァーノンが提示した国際分業におけるプロダクト・サイクル理論が重要であることが示された上で,グローバルな視野と長期の展望を持ったイノベーション・マネジメントがどのように具体化されているのか,トヨタの事例が紹介された。そのキーワードはイノベーションによって生み出された価値の「普及」であり,社会の発展に寄与することで結果として会社の「収益」に貢献すべきだという考え方が基本となっているとの理解が示された。イノベーション・マネジメントの具体的な考え方を,プリウスの開発プロジェクトの経験から導出された「8つのプロセス」,つまり,(1)企業文化の醸成、(2)トップマネジメントによるイノベーション領域の提示,(3)CTOによるイノベーション技術の見極め,(4)普及できるかどうかの検討、(5)コスト・品質の検討、(6)マーケティング,(7)グローバル普及、(8)次世代化,として整理・紹介された。質疑応答では、経営理念の実現の方策やプリウス開発プロジェクトにおける管理会計の役割などについて活発な議論が行われた.

2013年度 第1回関西・中部部会開催記

2013年6月21日|上埜 進(甲南大学)、長坂悦敬(甲南大学)

2013kansai_1.jpg■■ 2013年6月15日(土)13:30から,甲南大学岡本キャンパス5号館2階521教室 において,2013年度 第1回 関西・中部部会が開催された。小菅正伸部会長の挨拶の後,自由論題で4つの報告,統一論題で3つの報告が行われた。いずれも興味深い研究成果の報告で,報告者とフロアとの活発な議論が交わされた。大会参加者は47名を数え,盛況のうちに大会は終了した。以下はその概要である。

■■自由論題(13:30‐15:30)
第1報告 杉山 善浩氏(甲南大学経営学部教授)

「コンティンジェンシー理論の再評価」 

2013kansai_2.jpg コンティンジェンシー理論とは「あらゆる状況に適用できる唯一最善の方法というものは存在せず、状況が異なれば、有効な方法は異なる」という考え方を 示唆するものであり、古くからこの理論のもとで数多くの実証分析(サーベイとケース)が行われてきた。初期のコンティンジェンシー研究は組織論の視点に基づくものであったが、1972年のKhandwallaの研究を契機として、管理会計 的視点を取り入れるようになった。本報告では、組織論の視点に基づくコンティンジェンシー研究ならびにコンティンジェンシー理論を援用した会計学研究に関する文献を渉猟することで、コンティンジェンシー理論の歴史をたどり、 さらにはコンティンジェンシー研究の貢献と限界を論じた。

第2報告 佐々木 宏氏(立教大学経営学部教授)

「ビッグデータ時代のデータアナリティクス」

2013kansai_3.jpg 従来、企業は基幹業務のトランザクション・データをコアにしたデータ分析を行い,コスト・マネジメントなどへの連携を図ってきたが,ビッグデータ関連のテクノロジーの進化に伴い,各種ソーシャル・データを取り入れたマネジメントが可能になりつつある。本報告では,ビッグデータのイノベーションが,IT投資,マーケティング活動、経営意思決定、コスト・マネジメントなどへどのようなインパクトをもたらすかについて検討した。

第3報告 坂戸 英樹氏(愛媛大学大学院連合農学研究科博士課程、
         鹿児島県肝付町役場政策調整監兼農業公社設立準備室長)

「経済効果予測を"脱問題先送り"にいかに活用するか ‐ケーススタディ‐」

2013kansai_4.jpg  経済効果の予測値は,そのインパクトから経営課題の直視や根本策検討を促進できるが,投資等の判断材料としては限界がある。理由は,根本策への投資額の算出に直結しないこと,非現実性(例 予測値に外部不経済が反映しない)等である。 本報告では,経済効果予測の「脱問題先送り」への活用について,限界克服の事例が報告された。事例は,「同予測から投資等の許容額を導出する際に,産業連関分析の限界克服方法の仮説を設ける」という自治体の「脱農業衰退」政策の形成過程である。

第4報告 今井 範行氏(名城大学客員教授)

「マテリアルフロータイムコスト概念の提唱―トヨタ生産システムとマテリアルフロー
コスト会計統合的進化の可能性に関する一考察―」

2013kansai_5.jpg 近年,企業経営における環境意識の高揚を背景に環境管理会計が興隆し,とりわけ生産・物流プロセスを対象とするマテリアルフローコスト会計(MFCA)が発展する傾向にある。一方,日本を代表する効率的生産方式であるトヨタ生産システム(TPS)に関しては,その環境貢献性について,従来,指摘がなされてきた。しかしながら,TPSと環境管理会計との関係に関する考察,および,両者の整合化・統合化に関する視点や枠組みは,従来,明確には存在しなかった。本報告では,TPSとMFCAとの関係に関する考察をおこない,両者の統合的進化を促進し得る新たな管理会計概念として,「マテリアルフロータイムコスト(MFTC)」の概念を提唱した。

■■統一論題

「アジアにおける管理会計の潮流 ‐2013APMAA名古屋大会を前にして‐」 (15:40‐17:00)

 統一論題では,今秋に名古屋で開催する2013 APMAA (アジア太平洋管理会計学会2013年度年次大会)を前にしていることもあり,論題を「アジアにおける管理会計の潮流 」と命名し,上埜 進氏(甲南大学大学院社会科学研究科教授)を座長に,3つの報告が行われた。

第1報告 上埜 進氏(甲南大学大学院社会科学研究科教授)

「APMAAにおける管理会計研究」

2013kansai_6.jpg 本報告では,APMAA Research Initiativesについて解説した。冒頭にAPMAAの概要を簡略に述べ,第1節 APMAA Past and Future Conferences: Dates and Locationsに,年次大会の発展史と2015年までの予定の説明があった。第2節は、APMAA学会誌であるAsia-Pacific Management Accounting Journal (APMAJ)への論文投稿、掲載論文の分布などの説明であった。第3節ではIndustrial-Academic Cooperationの可能性を,また第4節ではInternational Research Collaborationの方向を示された。昨今,アジアの時代と喧伝されているが,社会科学研究の世界は,今日まで、欧米ないしAnglo-Saxonが主導していると述べられ,APMAA Research Initiativesは,会計の世界でアジアから世界に向けた発信が増えればという思いで,展開しているとのことであった。

第2報告 王 志氏(名古屋商科大学専任講師)

「中国から見た日本の管理会計」

2013kansai_7.jpg 本報告は,日本的管理会計の国際的展開という脈絡の中で,中国における日本的管理会計に対する認識をサーベイしたものであった。具体的には,CNKIという中国語のデータベースを用いて中国の学術誌に掲載されている管理会計論文を検索し,90年代に続いて2000年以降も日本の管理会計を議論する論文が中国で増え続けていることを示された。また、中国では,日本の管理会計の特徴として,市場志向と源流管理が,日本の管理会計の手法として原価企画とジャストインタイム生産方式が,広く多く取り上げられているとのことであった。日本の管理会計における,環境に適応する管理会計の運用,市場志向の考え方が,中国で注目されていることも紹介された。今回のサーベイでは,中国での日本の管理会計に対する認識を紹介できたが,その認識に至るプロセス(認識のルート)の考察は今後の研究課題であると述べ,報告を終えられた。

第3報告 水野 一郎(関西大学経済政治研究所長・商学部教授)

「中国における管理会計の動向 ‐理論と実務‐」 

2013kansai_8.jpg 本報告ではまず,報告者によりこれまでの中国管理会計に関する研究の紹介がなされ,そのうえで今回は中国会計学会の機構と構成,特徴,中国の公認会計士試験科目における管理会計内容と日本の公認会計士の管理会計科目との比較、検討がなされ,最後に最近の中国において活発な活動を展開している中国IMAの活動について紹介された。  なお,同報告では,結論を以下のようにまとめられた。 1.最近の中国における管理会計の動向としては,国際化,グローバル化が一層進展し,とりわけアメリカへの傾斜が一段と強化されていること。 2.中国IMAが提唱している「管理会計の日」の設定に象徴されるように管理会計の導入に対してきわめて積極的な姿勢が見られること。 3.中国の公認会計士試験の改革(国際化、コンピュータ化)なども参考になり,「財務原価管理」,「会社戦略とリスク管理」という中国の科目設定は興味深いものであり,財務管理と原価計算,管理会計の枠組みも再度考え直すことも必要。 ちなみに,当日の資料で中国会計学会の創立年が1990年となっていたが,1980年の誤りであることが報告者から伝えられた。

2012年度 第2回関西・中部部会開催記

2013年4月 5日|頼 誠(兵庫県立大学)

2012kansai2_1.JPG■■2013年3月23日(土)12:50から,兵庫県立大学 学園都市キャンパスC104教室 において,2012年度 第2回 関西・中部部会が開催された。部会の前半においては,山本達司氏の司会により3つの自由論題の報告が,後半の統一論題においては浅田孝幸教授の司会により3つの報告が行われた。以下はその概要である。

■■第1報告 梅谷幸平氏(大阪大学大学院経済学研究科博士後期課程)

「日本の紡績業界およびアパレル業界における倒産予測の実証研究」

2012kansai2_2.jpg 本報告の目的は、企業の経営管理目的から倒産予測モデル研究を行い,日本の紡績業界およびアパレル業界における安全性の管理指標を明らかにすることである。管理指標として,個別企業の倒産確率が推定可能な確率統計技法を用いるとともに、使用する説明変数には企業の自助努力で改善ができること、リスクを低減するための多様な対策が可能であることといった特徴を持つ「安全性指標」に焦点をあてた分析のプロセスと分析結果が報告された。また,個別企業の倒産予測という微視的な視点により近づけるために,紡績業界およびアパレル業界という細分化した業界を各々調査対象とし,企業の類似性を維持したクラスター視的な統計的知見が示された。

■■第2報告 佐藤清和氏(金沢大学)

「マルチンゲール測度に基づく確率的CVP分析の拡張」

2012kansai2_3.jpg 従来の不確実性下におけるCVP分析の研究では,特定時点における操業度等を確率変数とする確率的CVP分析が検討されてきた。これに対して,本報告ではCVPの時系列を対象とした動学的視点からの確率的CVPモデルが提示された。
 具体的には,営業収益の時系列がマルチンゲールになると仮定することで,営業収益のボラティリティに基づくリスク中立確率を導出し,これによって利益請求権(オプション)としての株式価値のバリュエーションが試みられた。

■■第3報告 河合隆治氏(同志社大学) 乙政佐吉氏(小樽商科大学) 坂口順也氏(関西大学)

「わが国におけるバランスト・スコアカードの動向:欧米での蓄積状況を踏まえて」

2012kansai2_4.jpg 現在,バランスト・スコアカード(Balanced Scorecard;以下BSC)研究は、欧米のみならず,わが国においても管理会計領域の主要テーマの一つとして位置づけられている。しかしながら、BSCは,さまざまな研究者によって,多様な観点から研究されてきたため,BSC研究の蓄積状況について全体像を把握することは容易ではないのが現状である。
 本報告では,論文数,研究方法,理論ベース,研究サイト,研究内容が経時的にどのように変遷しているのかに関する文献分析をもとに,欧米でのBSC研究の蓄積状況との比較による考察を通じて,わが国のBSC研究の特徴が明らかにされた。

■■統一論題においては、「管理会計とリスク」というテーマで、淺田孝幸教授の座長のもと、若手研究者2名によるこれまでの文献研究および企業調査を基礎にした提案、および公認会計士1名による実務経験を踏まえた興味深い知見をうかがうことができた。

■■第1報告 大浦啓輔氏(滋賀大学)

「危機管理における管理会計の意義:組織間関係の視点から」

2012kansai2_6.jpg 本報告では,危機的状況において,管理会計がどのような意義と役割をもつのかについて考察された。第1に,リスクマネジメントと危機管理を定義し,危機管理はリスクの顕在化を防止することよりも,危機発生後の損失の最小化と復旧のための対応に重点があることが述べられた。そして,欧米と日本の危機管理に関する管理会計領域の先行研究のレビューを踏まえて,危機管理に関する研究は,重要なのにもかかわらず,管理会計ならびに経営情報とコントロールシステムに関連する領域で,まだほとんど行われていないことが報告された。第2に,東日本大震災時のJR貨物の対応事例から得られた知見が紹介された。すなわち,震災前と被災・復旧時とでは以下のような変化があった。(1)組織構造が集権的かつ機能分化した専門組織だったのが,現業部門の指揮命令系統は確保しながらも,有機的・自律的な職能横断的,自律的なチーム活動,インフォーマルなコミュニケーションが盛んに行われた。(2)たとえば,予算管理は危機的状況において,どのように柔軟に対応できるかということが課題なのであるが,平時の経営計画に基づいた地域別の損益予算から,通常のPDCAに基づいた予算管理とは異なる形での管理会計情報の生成と運用が観察された。第3に,Hopwood(2009),Van derStede(2011)による金融危機からの知見と本事例を比較して,危機に直面した組織において,組織内,組織間の会計情報の利用形態に変化がみられた点では一致していたこと。その背景には組織構造の変化があった。第4に,本研究の限界として危機管理は地域固有のコンテクストに依存する可能性が高い点で学術的研究としては困難を伴うこと,そして,従来からの管理会計の既存研究の流れの延長上で研究を展開する可能性を検討していきたいという見解が表明された。

■■第2報告 山下直紀氏(山下公認会計士事務所)

「投資意思決定におけるリスク」

2012kansai2_7.jpg 本報告では,事業投資意思決定におけるリスクの考慮方法について,理論と実務との間にかい離があるという報告がなされた。すなわち,ファイナンス理論に基づいた計算結果だけで意思決定が行われるのではないという事実が紹介された。日本の某大手総合商社では(1)定量基準と(2)定性基準があるが,投融資委員会においては,(1)を見極めながらも(2)が重視されているのではないかという実務家ならではの体験に基づく見解が表明された。また,中小を含む多くの一般事業会社でも,キャッシュフローで判断することの意義を理解しつつも,純資産法での意思決定がなされる事例が多いのではないかという見解が示された。実務で利用される技法には「分かりやすさ」という点が重要であること,ファイナンス理論に基づく合理的な意思決定だけでは説明のつかない事象があるとのことである。これらについては,さらなる研究に期待したいとの意見が述べられた。

■■第3報告 安酸建二氏(近畿大学)

「業績測定指標とリスク」

2012kansai2_8.jpg 本報告では,意思決定会計と業績管理会計という2つの観点から管理会計とリスクの問題が扱われた。意思決定会計における投資決定では,理論上,資本コストとしての割引率にリスクが反映されることになる。このリスクは,予測される将来キャッシュフロー(以下,CF)の期待値のまわりのバラツキである。したがって,将来CFの期待値に対する実現値がバラツクことは,意思決定時点のリスクを反映する資本コストとしての割引率に織り込み済みである。
 将来CFの流列は資本コスト控除後の利益の流列へと変換可能であり,業績管理会計上の収益と費用を用いた予算へ取り込むことができる。この時,意思決定会計上,バラツキを伴う期待値であったものが,業績管理会計上のPDCAサイクルでは目標値として扱われバラツキが許容されない。経営とはこのバラツキに対処し,目標値を組織的に実現する営みとして業績管理会計では理解されている。このような考え方は,例えば,標準原価計算における価格差異の追跡と責任部門へのフィードバックに典型的に見られる。
意思決定の場面ではバラツキを伴う「予測」であったものが,業績管理の場面ではバラツキを許容しない「目標」となる。この結果として管理会計でリスクを扱うことが困難になっていると,報告者は考えている。
 さらに,意思決定会計のロジックと業績管理会計のロジックは,必ずしも整合性のある形で共存していない。例えば、投資プロジェクトを念頭に置けば,計画値と実績値の対比が可能になった時点では,理論上,過去の意思決定は,現時点の意思決定とは無関連である(価値無関連である)。したがって,意思決定会計のロジックでは,事前の計画値と実績値の対比に意味を見出すことは困難である。しかし,現実の経営実務ではしばしば過去の計画値と実績値の対比が行われている。 本報告では、以上のような問題が提起された。

2012年度 第1回 関西・中部部会 開催記

2012年8月17日|威知 謙豪 (中部大学)

■■日時・場所
●日 時 : 2012年5月26日(土)
●場 所 : 中部大学 春日井キャンパス 22号館2215講義室

■■日本管理会計学会2012年度第1回関西・中部部会が,2012年5月26日(土)に中部大学(愛知県春日井市)にて開催された(開催委員長:中部大学・竹森一正)。今回の関西・中部部会では,北海道・関東からの参加を含め,4名の自由論題と統一論題が行われ,約40名の研究者による活発な質疑応答が展開された。

■■自由論題報告第1部(院生セッション)

2012kansai1_1.jpg■■ 第1報告 第1報告では,井上和子氏(立教大学大学院)より「工業簿記と原価計算との有機的な結合による原価管理事例の考察」と題する研究報告がなされた。本報告では,標準原価計算を取り巻く現状を整理した上で,企業における事例,標準原価計算による原価差異分析,標準原価計算の活用による原価管理,標準原価を基軸とする労務管理の展開について考察が行われた。これらの考察を踏まえ,長期の企業経営という視点に立脚した場合,会計・原価計算は,本来,将来へ向けての実績計算にこそ意味を持つものであることが主張された。

■■ 第2報告 第2報告では,梅田浩二氏(名古屋市立大学大学院)より,「海外子会社からの研究開発費回収方法に関する考察─移転価格税制と研究開発費負担の公平性の視点から─」と題する研究報告がなされた。本報告では,研究開発費の回収にあたり,現状では,ライセンス契約に基づくロイヤルティによる単一の方法で回収する企業が最も多いが,国際税務と開発費負担の公平性の観点からみれば,無形資産形成と費用分担契約,メディアへの転写作業と役務提供契約,無形資産の利用とライセンス契約,をそれぞれ対応させ,研究開発の各プロセスと最もよく適合する回収方法を複合的に選択することが望ましいと主張された。

■■自由論題報告第2部

2012kansai1_2.jpg■■第1報告 第1報告は,威知謙豪(中部大学)より,「特別目的事業体の連結会計基準の厳格化と実体的裁量行動」と題する研究報告がなされた。本報告では,一定の要件を満たす特別目的事業体を連結範囲から除外する例外規定の厳格化に伴い,その影響が相対的に高い企業においては,例外規定を利用した取引を取りやめる傾向にあることが確認された。一方で,早期適用や,今後の経営目標として採用される各種指標の算定の際に,一定の要件を満たす特別目的事業体を連結範囲に含めるか否かについては,例外規定の厳格化の影響の高低との一貫した関係は見られないことが報告された。

■■第2報告 第2報告では,高瀬智章氏(広島国際大学)より,「公的病院の事業評価─政策医療費と収益医療費区分の必要性─」と題する研究報告がなされた。本報告では,公的病院の適切な業績評価に有用性を発揮する指標としての会計情報という視点から,公的病院の会計情報のあり方に関する指摘と提案がなされている。考察の結果,公的病院の主目的は「政策医療の実施」にあることから,副次的な活動である「収益医療」とを区分した区分表示型損益計算書の有用性が示唆された。

■■統一論題テーマ 「『絆』の時代における環境管理会計の今日と展望」
(座長:吉村文雄氏(金沢大学名誉教授),司会:竹森一正(中部大学))
2012kansai1_3.JPG 統一論題報告の冒頭で,竹森大会開催委員長より統一論題テーマ趣旨の説明が次のとおりなされた。
 2011年の大震災以来,私達は,放射能の不安に代表される暗い将来展望と不確実性が増す社会状況の中で生活を強いられています。しかし,それ故にでしょうか,人は絆を求め,愛を求め,友情を求める気運が満ちるようになっています。この中で「光につなぐ梯子」を懸命に,いろいろな分野で,探し,構築しようとの試みも見過ごすべきではないと考えます。幸いに私たちは管理会計という企業の根本を形成する基盤を専門としており,この知見は今後,強力な指導原理となることを見過ごしてはなりません。私達開催委員会は,この混迷の中で進展と深化の根源となる管理会計の研究エリアとして環境管理会計に着目し,また,時代状況を克服する意味での「絆」をキーワードとして,統一論題テーマを設定致しました。

■■第1報告 統一論題第1報告では,中嶌道靖氏(関西大学教授)より「MFCAのサプライチェーンへの展開」と題する研究報告がなされた。本報告では,MFCA(マテリアルフロー・コスト会計)をサプライチェーンに拡大しようとする日本企業の事例を中心に,MFCAのISO化による世界への普及,東アジアを中心としたMFCA のサプライチェーンへの展開の実現に向けた課題について検討がされ,そのうえで,MFCAによるグローバルな資源生産性の意義について考察が行われた。現在,日本企業以外にも,ISO14051をきっかけとして,東アジア企業においてもMFCAのサプライチェーンへの展開が行われており,これらを踏まえると,MFCAを1つのトリガーとして環境管理会計の研究および企業活動の中での繋がり・絆ができつつあることが述べられた。

■■第2報告 統一論題第2報告では,長岡正氏(札幌学院大学教授)より「物流環境管理会計の展開」と題する研究報告がなされた。本報告では,現在の環境管理会計は,一般に製造を対象としても物流までは対象としていないことから,輸送量削減を手段とする物流の取り組みは,生産量を所与とする製造の取り組みよりも効果が期待できると指摘された。その上で,物流コスト管理を目的とした物流管理会計,荷主の視点から実施するグリーン物流の取り組み,および製造を対象とする環境管理会計の3領域について,物流を対象とする環境管理会計の可能性の観点からの考察が行われ,同時削減を示す物流を対象としたエコ効率性の試案の1つとして, という評価指標が提案された。

■■第3報告 統一論題第3報告では,今井範行氏(名城大学客員教授)より「環境管理会計とジャスト・イン・タイム経営」と題する研究報告がなされた。本報告では,トヨタ生産システム(TPS)をベースとした,ものづくり経営(=ジャスト・イン・タイム経営)という視点から,環境管理会計の今後の実務的課題について検討がおこなわれた。外部環境会計では,ものづくり現場の環境競争力の練磨には一定の限界があることから,最少資源で最大価値の創出を志向する環境システムとしてTPSを位置づけ, Jコスト,利益ポテンシャル,デュアルモード管理会計,TPSとマテリアルフロー・コスト会計の統合化,といったジャスト・イン・タイム経営に整合する環境管理会計の構築に,今後の環境管理会計の発展の可能性があることが述べられた。

■■ 報告者・司会者の先生方のご協力により,自由論題報告,統一論題報告および討論会をほぼ時間通りに進行することができた。そして,それぞれの報告に対しては活発な質疑応答がなされ,充実した部会研究報告となった。

2011年度 第2回 関西・中部部会開催記

2012年2月17日|関西・中部部会 実行委員 堀井悟志(立命館大学)

■■ 日時・場所
●日 時 : 2012年2月11日(土) 12時50分‐20時
●場 所 : キャンパスプラザ京都 4階 第3講義室

■■ 2012年2月11日(土)12時50分から,キャンパスプラザ京都4階第3講義室にて,日本管理会計学会2011年度第2回関西・中部部会が開催された。実行委員長の立命館大学・齋藤雅通教授の挨拶,部会長の関西大学・水野一郎教授の挨拶につづいて,3つの自由論題報告が行われ,その後,統一論題報告・パネルディスカッションが行われた。いずれの報告も管理会計研究上の最先端のトピックに関する内容であり,質疑応答も活発に行われた。参加は関西・中部地区に限らず,東京や九州・沖縄からもあり,参加者は50名を超し,大変有意義な関西・中部部会であった。

■■ 第1報告 梅田浩二氏(名古屋市立大学大学院博士後期課程)

「海外子会社の分権化と国際振替価格管理プロセスの関係性に関する考察」

2011kansai_2.jpg 本報告では,「移転価格税制の遵守」と「健全な経営管理」を同時に実現するための国際振替価格管理システムの構築という問題意識のもと,国際振替価格設定プロセスの決定メカニズムを分権化と移転価格税制の観点から質問票調査に基づいて検討された。海外子会社の分権化パターンと市場における価格競争の度合いから国際振替価格設定基準の選択行動を説明できる可能性が指摘された。

■■ 第2報告 村上暢子氏(筑波大学大学院博士後期課程)

「M&A・組織再編を実施した日本企業の財務特性に関する研究」

2011kansai_3.jpg 本報告では,過去のM&A・組織再編実績を分類し,経営手段としてのM&Aが企業業績へどのような影響を与えているのかを概観すること,そしてM&A・組織再編を実施した企業と実施していない企業で,「資金調達活動」「資金投下活動」「営業活動」といった経済活動に差が生じているのかを明らかにすることを目的とした実証分析の結果が報告された。分析の結果,M&A形態において「買収」を選択した場合,M&Aを実施していない企業の業績とは異なる財務指標の結果を示すことが多いこと,先行研究ではM&A実施の3年後に成果がみられるのが標準とされるが3年後にもM&Aや組織再編の成果としての財務特性は特にみられなかったこと,経営手段としてM&Aや組織再編を実施する企業の財務パフォーマンスにおいて「資金調達活動」や「資金投下活動」に関しては特性がみられるが,「営業活動」に関してはあまり特性がみられなかったことが明らかにされた。

■■ 第3報告 北山一真氏(プリベクト代表)

「原価企画の発展的活用による『顧客価値会計』の考察」

2011kansai_4.jpg 本報告では,原価企画やライフサイクルコスティングが現代の製品改革の取り組みと整合的に融合されていないという問題意識のもと,製品開発管理手法と原価企画の融合に関するフレームワークの検討が行われ,顧客と企業の価値交換媒体として製品を軸とし,Strategy Layer(Time-Line Costing), Management Layer(Lifecycle Target Costing), Operation Layer(Spec Driven DTC)の3つの階層からなる顧客価値会計が提示された。

■■統一論題
「企業環境の複雑性の増加と管理会計」(コーディネーター:星野優太氏(名古屋市立大学教授))

■■統一論題第1報告 武富為嗣氏(日本工業大学技術経営大学院教授,コーポレートインテリジェンス株式会社社長)

「経営戦略に連動した原価管理の考え方・進め方」 

 本報告では,経営の意思決定に役立てるような原価の把握とそれに基づく事業や製品(群)の収益を把握するという戦略に連動した原価管理の在り方が検討された。そこでは,単に,製品別原価を細かく把握し,各々の製品の収益性をみて原価改善を行うだけでなく,(1)事業や製品群をどうくくるかによって,くくりごとの収益性をみて,集中と選択や外部移管などの戦略的な意思決定に役立てる,(2)研究開発の進め方の仕組み作りと原価把握を連携することによって,くくりごとの研究開発の費用の多寡,研究開発の上流,下流の費用の比重,開発案件の投資効果の把握などにより,投資の継続,中止や資源投入の的確な判断などの戦略的に研究開発の投資効率に役立てる,(3)個別生産,準量産,量産などの仕組みつくりと原価把握を連携させることによって,量産に特化するか,個別生産に特化するか,海外を含む外部に移管するかなどを,上述の群で,判断しグローバル経営の生産効率を明確化するのに役立てるために,どのように考え,進めていくのかが具体的に提示された。

■■統一論題第2報告 頼誠氏(兵庫県立大学教授)

「業績管理会計の課題―分社制におけるMCSについて―」

 本報告では,環境の不確実性・複雑性が増加するにつれて進んだとされる分権化のもとで責任会計を中心とする業績管理会計も変貌してきたようにみえるが,その根底にある考え方等は今も存在しているかもしれないという認識のもと,純粋持株会社制(HD制)におけるマネジメント・コントロール・システム(MCS),業績管理会計の課題について,聞取調査と文献研究をもとに考察がなされた。そのなかで,HD制のMCSにおいては,部分最適化の可能性という問題があり,その問題に対処するために人事権,資金調達権,情報などをHDに集中することでHDの求心力の強化が必要となる一方,HD制の特徴でもある子会社の多様性・自律性を促進するために子会社の遠心力を強化する必要があることが指摘された。そのうえで,このHDの求心力と子会社の遠心力をバランスさせるために,HDによる子会社の意思決定への介入と子会社の多様性・自律性のバランスとタイミングを考える必要があることが述べられた。

■■統一論題第3報告 上總康行氏(福井県立大学教授)

「コスト・マネジメントのグローバル最適化」

 本報告では,管理会計研究は新たな方向として,(1)日本企業に基礎を置いた研究,(2)プラットフォームとしての会計学の確立,(3)会計学研究の国際的競争参加を推し進めることが重要であることが述べられたうえで,コスト・マネジメントの発展の経緯と今後の研究課題が提示された。コスト・マネジメントは,単一製品大量生産時代の標準原価計算による製造段階でのコスト・マネジメントから,多品種少量生産時代の原価企画による新製品の企画設計段階でのコスト・マネジメントへと展開され,その後のグローバル競争時代では,戦略策定段階でのコスト・マネジメントとして,資本予算(投資経済計算)や戦略的コスト・マネジメントが展開されてきたことが述べられた。そのうえで,タイの洪水被害での生産ストップにみられるように,生産拠点がグローバルネットワーク化しているなかでは,リスクが増大しており,今,管理会計はこのグローバルなサプライチェーンの再構築という問題をいかに受け止め,説明理論だけではない新しい規範論(管理会計方法)を提唱できるかが重要な課題であると提起された。パネルディスカッション ,統一論題の3つの報告を受け,名古屋市立大学・星野優太教授をコーディネーターとしてパネルディスカッションが行われた。そのなかで,グローバル化やイノベーションの高度化という環境のなかで,管理会計をどう考えるか,日本の管理会計研究・実務はもろもろの変化に対して独自性を発揮できるのかといったような問いに対して,武富氏からは,環境が複雑化しても会計による見える化の重要性は変わらず,また環境が複雑になろうとも意思決定に有効であるためにシンプルであるべきであること,また,研究開発の見える化が必要であることが,頼氏からは環境の変化に対して組織がどのように変化したのかを捉え,そのうえで管理会計の変化を検討することが重要であり,組織の構造が日本独自のものがある以上,日本的な管理会計というものも存在すると考えられ,それはグローバル化のもとで認識可能になるということが,そして上總氏からはこれまで管理会計研究では問題として捉えられていなかった問題について対応していく必要があること,また複雑な企業経営を単純な仕組みで単純化し,それによって集団による意思決定を可能にすることに管理会計の貢献可能性があること等が指摘された。また,実務とのかかわりにおいて,いま,そして今後求められる研究者の方向性として,上總氏からは実務や海外の事例を知っていることが研究者の強みでなくなった今,実務家の知見を理論化・概念化することが,頼氏からは実務を知り,理論化するために,アクセス可能性の高い中小・中堅企業の管理会計実践を調査することの可能性が,そして武富氏からは,大企業の最先端を追いかけ,それを理論化することが指摘された。

2011年度 第1回関西・中部部会開催記

2011年7月 8日|関西・中部部会 実行委員 安酸建二(近畿大学)

■■ 日 時・場 所
2011年6月25日(土)
近畿大学東大阪キャンパス21号館203教室

■■2011年6月25日(土)午後1時30分から,近畿大学東大阪キャンパス21号館203教室にて,日本管理会計学会2011年度第1回関西・中部部会が開催された。今回の部会は,Asia-Pacific Management Accounting Association(APMAA)との共同企画をプログラムの一部で取り入れて行われた。部会の前半は,APMAAとのジョイント・プログラムであり,東北大学の青木雅明氏と?長谷部会計マネジメンツの長谷部光哉氏との共同報告,マレーシアよりWEE,Shu Hui氏の報告が,司会の上埜進氏(甲南大学)の下で英語によって行われた。ジョイント・プログラムの終了後,休憩をはさんで,関西・中部部会の研究報告が行われた。いずれの報告も管理会計研究上の最先端のトピックに関する内容であり,それぞれの報告の後,フロアにおいて活発な質疑応答がなされた。40名を超す参加者の熱のこもった議論が行われ,有意義な関西・中部部会であった。

■■第1報告 AOKI, Masaaki.(Tohoku University) and HASEBE, Mitsuya (Hasebe Managements)

"The Significance of Learning Process in BSC Introducing Process"
2011kansai1_1.jpg 本報告では、BSCを中小企業へ導入するプロセスが事例に基づいて検討された。中小企業の場合、大企業に比べ経営資源・資金・時間といった制約が大きいことが指摘され、中小企業へBSCを導入する際の学習プロセスに焦点を当てる必要性が議論された。

■■ 第2報告 WEE, Shu Hui (UiTM, Malaysia)

"Management Accounting Information: Its Use by Top Management Team in Transforming A Company"
 トップ・マネジメントが管理会計情報をどのように用いてコントロールを行ったり、外部環境に関する情報を認知したりするのかという研究が報告された。特に、組織学習における管理会計システム、管理会計情報の役割について論じられた。

■■ 第3報告 坂戸 英樹 氏 (愛媛大学大学院連合農学研究科博士課程, ?天王寺ステーションビルディング)

「ショッピングセンターの会計におけるテナントとの接点」
 本報告では、ショッピングセンターの利益構造の特徴が議論された。ショッピングセンターの財務・管理会計の構造に関して、施設の改装、販売促進活動、テナント会を主な切り口として、テナントとの接点が分析された。

■■ 第4報告 高田 富明 氏(神戸大学MBA修了生)・梶原 武久 氏(神戸大学大学院経営学研究科)

「部門管理者の利益操作に関する探索的研究:インタビュー調査より」
2011kansai1_2.jpg 部門管理者による利益操作行動に関して実施した探索的インタビュー調査の結果が報告された。インタビューデータの分析の結果、(1)部門管理者レベルにおいて利益操作が観察されること、(2)これまで認識されてきた利益操作方法以外に部門管理者レベルに固有な利益操作方法や行動が存在すること、(3)利益操作が多様な動機で行われること、(4)部門管理者が直面するコンテクストにより、利益操作方法や動機が異なることなどが明らかにされた。

■■ 第5報告 福嶋 誠宣 氏(神戸大学大学院経営学研究科博士課程後期課程)、米満 洋己 氏(エスペック株式会社経営企画本部 経営戦略部 経営戦略グループ 主事)、 新井 康平 氏(甲南大学マネジメント創造学部講師) 、梶原 武久 氏(神戸大学大学院経営学研究科)

「日本企業の経営計画:探索的分析」
 日本企業の経営計画に関する実態調査の結果が報告された。記述統計だけではなく、過去の研究との経年変化を明らかにするメタ分析、経営計画の構成要素間の関連性の分析、組織成果への影響の分析などの統計的な分析が行われ、結論として、経営計画の策定目的には内部管理目的と外部報告目的があり、内部管理目的が主観的成果と正の関係を、外部報告目的がROAと負の関係を有していたことが報告された。

2010年度 第1回関西・中部部会(兼第2回フォーラム)開催記

2010年8月 3日|関西・中部部会 実行委員 古田隆紀氏(大阪学院大学)

■■日 時
2010年7月17日(土)
■■場 所
大阪学院大学2号館

■■実行委員長の大阪学院大学宮本寛爾教授の挨拶につづいて,公開講演(日本管理会計学会・大阪学院大学共催),パナソニック株式会社,常務取締役 上野山 実氏が演題「パナソニックの経営理念と経営管理制度」で講演された。

2010kansai1_1.jpg■■パナソニックの経営概念、経営理念の説明から,パナソニックの経営管理制度、資金管理制度,業績評価制度,グローバル経営管理,経理社員制度まで詳しく語られた。パナソニックの経営管理制度は,事業部による自主責任経営を基本理念に利益責任と資金責任を併せもつことが最大の特徴である。事業計画制度,月次決算制度、内部資本金制度は,この経営管理制度の骨子であり,独特のものである。事業計画制度は,社長の経営基本要綱とその目標心達を事業場長が契約したものである。経営基本要綱にはCO2削減量がふくまれる。また、内部資本金制度は,自主責任経営を裏付ける必要にして適切な資金を委ねるもので,事業場長は自己の責任において自由奔放にして独創的な経営を行うとされる。目的は,財務責任を実態づける,内部留保の明確化を通じ,経営のヨロコビを知る,借入金・内部留保など資金の源泉をハッキリさせる,ことである。業績評価制度は,CCM(パナソニック版EVA),成長性,環境を合計100点とし,報酬制度と連動させる仕組みとなっている。CCMは,資本コスト重視の経営であり,原価の計算の中にも資本コストを取り入れることも肝要とつけくわえられた。グローバル経営管理については,海外事業投資には本社から100%出資を基本としているなど詳細に説明された。  以上,貴重なお話にフロアからの質問が絶えず,退場後もいくつかの意見交換がもたれた。

■■つづいて,統一論題「管理と会計」が浜田和樹氏(関西学院大学)の司会により始まり,以下の3氏が報告された。まず,北田幹人氏(八木通商株式会社、常務取締役)より「専門商社の経営管理」という論題で報告がなされた。専門商社としての特性が説明された後,予算管理,与信管理また在庫管理が重点的に説明された。業界特有の変化が著しく,月次決算を予算管理の柱として毎月のローリング,つまり機動的に予算を修正すること,与信管理も週1回のチェツクがなされること,在庫管理は不良在庫を減らすために納品管理を徹底することなどが強調された。また,社内資本金制度の導入はしていないが,必要資金を社内貸借勘定で把握し,また金利を付加する形で損益計算表が作成されている。

2010kansai1_2.jpg■■つぎに,横山俊宏氏(株式会社竹中工務店、常勤監査役)より「建設業におけるプロジェクトをベースとした経営管理」という論題で報告がなされた。竹中工務店の紹介,建設業における「プロジェクト」,プロジェクトの採算管理,経営理念について順次説明された。上場していない数少ない大手企業で,建設業では受注高がきわめて大きな要素となり,社員一人当たり年1億円の受注高を目指している。プロジェクトの決定は,進行基準決算がとられており,工事価格と利益の推定が鍵となる。企業の継続・安定・成長は次の100年というごとくレンジが長いのが建設業の特徴などなどが力説された。

■■最後に、大下丈平氏(九州大学)より「不況の管理会計学:「管理と会計」に寄せて」のテーマで報告がなされた。不況のおけるリスクをさけるための施策は、内部統制をブレーキに、企業価値創造のベースに向けていかにアクセルできるか、という大きな視点から管理会計のメッセージが発信された。経済、社会、政治のバランスのとれた市場社会の形成が肝要というスタンスから、リスクマネジメントと企業価値創造のマネジメントを支援するガバナンス・コントロールの可能性が提案された。具体的にどういうガバナンスが必要かは今後の課題となるとされた。

■■それぞれの報告の後、フロアにおいて活発な質疑応答がなされた。40名を超す参加者の熱のこもった議論が行われ、有意義な関西・中部部会であった。

2009年度 第2回関西・中部部会開催報告

2010年4月14日|2009年度第2回大会準備委員会 中川優

■■日 時
2010年2月27日(土)13:20~19:30

■■場 所
同志社大学室町キャンパス寒梅館

■■第1報告:「階層的会計コントロールによる水平的相互作用の促進:ケーススタディ研究からの知見」
李 燕氏(立命館大学博士課程)
2009kansai2_1.jpg 企業における階層的会計コントロールのもとで,どのように水平的相互作用が行われるのかを,外食産業の企業の事例により,明らかにしている。報告では,水平的相互作用および階層的会計コントロールに対する批判などの先行研究をレビューした後に,アカウンタビリティの概念を導入した先行研究や様々な関連する経験的研究方法論に基づく先行研究を概観している。そこで,外食産業であるチタカインターナショナル社に対するインタビュー調査に基づいたケース研究の結果が報告された。事例研究からの発見事項として,水平的相互作用を阻害すると言われてきた階層的会計コントロールが,事例研究においては,逆に階層的会計コントロールにより,社内カンパニー間の相互作用を促進したという結果が報告された。

■■第2報告:「地方自治体へのバランスト・スコアカード適用に関する諸問題」
佐藤 幹氏(広島大学大学院博士課程)
 自治体マネジメントの向上・改善に貢献すると考えられていた行政評価がほとんど機能していない現状を踏まえて,財政難等の自治体が抱える問題を解決する手法としてのバランスト・スコアカードの可能性について検討を加えている。そこで,日本や米国の自治体へのバランスト・スコアカードの適用事例を検討した後に,適用が広がらない理由として,行政評価がマネジメントツールとして機能不全のまま適用されており,行政評価をバランスト・スコアカードにより行おうとすることは,本末転倒であると指摘した。さらに,BSCを普及させるためには,これまでに導入されたツールとの比較や,自治体の特性を十分に理解する必要があると主張した。

■■第3報告:「人的資源コストのマネジメント・システム」
山下千丈氏(関西学院大学博士課程)
2009kansai2_2.jpg 企業において,非正規社員の増加などの労働力の多様化が進むとともに,ビジネスプロセスのアウトソーシングが活発に展開されている。従来の人員数と給与・福利厚生費による人件費の管理では,多様なビジネスプロセスで発生する人的資源に係わるコストをマネジメントすることは極めて困難である。本報告は,人的資源のポートフォリオ・マネジメントをベースにして,人的資源コストを効果的にマネジメントするためのフレームワークを提唱した。まず,戦略に対する「人的資源の価値」と「人的資源の企業特殊性」の二要素から人的資源を,四つに類型化し,各類型の人的資源に関する特徴を明らかにした。
 人的資源コストを構成する要素は「所要量計画」,「調達計画」,「調達コスト」であり,各要素別に四つの類型に有効なマネジメント手法を,現在の企業で実践されている具体例の紹介をまじえながら考察をおこなった。さらにABCなどの管理会計ツールを適用することにより,マネジメント・システムを進化させることが可能となるとした。

■■ 第4報告:「日本のDPC導入病院のコスト・マネジメントの実態」
栗栖千幸氏(近畿大学大学院博士課程)
 本研究は,診断群分類(Diagnosis Procedure Combination:以下DPC)定額支払い制度を導入している病院のコスト・マネジメントの実態を明らかにすることを目的としている。今回の報告では,全国の2008年度DPC対象病院(717病院)におけるコスト情報の利用状況を提示した。
 調査結果(回収数77病院、回収率10.7%)から以下のことが判明した。第1に,DPC導入病院の約半数が原価集計を定期的に実施しているが,診療科・部門別集計が9割である一方,DPC別の集計は約2割にとどまっており,DPCを単位とした原価管理・利益管理はあまり実践されていないと考えられる。第2に,病院単位での利益計算では広く実施されているが,診療科・部門別単位の利益計算は約5割であり,そのうち約2割でしか目標値が設定されていないことから,内部組織を単位とした利益管理が定着していないと考えられる。第3に,DPC対応のクリティカルパス開発チームは,医師,看護師,経理スタッフを含めた多様な職種で構成されており,経理スタッフは財務・非財務の情報をパス開発チームに提供していたが,多様なパス開発チーム構成が医業成果(在院日数と病床稼働率)に与える影響は有意に示されなかった。以上のことから,DPC導入病院ではコスト・マネジメントの実践が現状において普及していないことが推測される。

■■ 第5報告:「VBM環境下における事業のライフサイクル・ステージと業績評価システムの関係性に関する経験的研究」
徳崎 進氏(関西学院大学 経営戦略研究科)
 実態調査研究に基づき,事業のライフサイクル・ステージがVBM(value based management;価値創造経営)を推進する事業単位の利益管理や原価管理への取組みに及ぼす影響を経験的に明らかにすることを目的に,先行研究の検討を踏まえて,「業績評価システムの設計・運用の適否が組織のパフォーマンスに影響を与える」という基本的な枠組みのもとで2つの仮説から成る因果連鎖を想定し,企業への質問調査から得られたデータを共分散構造分析の手法を用いて検証した。
 「事業単位の業績評価システムの設計・運用の適否が会社の財務パフォーマンスに影響を与える」という基本的な枠組みの下で,作業仮説の検証を行った。仮説1では,モデルIの確認的因子分析の結果,適合度指標はいずれも所定の条件を満たし,事業のライフサイクル・ステージの特性を考慮した業績尺度の選定が事業単位の適切な管理会計ツールの採用に正の影響を与えるという検証結果が得られた。仮説2では,モデルIIの確認的因子分析の結果,適合度指標はいずれも所定の条件を満たし,ライフサイクル・ステージに対応する測定尺度を組み込み設計・運用されている業績評価システムは事業単位および会社の財務パフォーマンスに正の効果をもたらすという検証結果が得られた。

2009年度 第1回関西中部部会開催報告

2009年6月15日|関西・中部部会大会運営委員長 星野優太

2009kansai1_1.jpg■■2009年6月6日(土)午後1時55分から、名古屋市立大学経済学部棟(3号館)にて、日本管理会計学会2009年度第1回関西・中部部会が開催された。今回の部会は、星野優太(名古屋市立大学)と斉藤孝一氏(南山大学)の司会により、院生と研究者とがそれぞれ日頃取り組んでいるテーマに沿って報告が行われ、テーマ的にも興味深い研究会となった。

2009kansai1_2.jpg■■まず、中富香苗氏(名古屋市立大学大学院生)が、「移転価格の設定とその比較可能性」というテーマで報告された。移転価格税制は、1995年のOECD移転価格ガイドラインが国際規範となっており、移転価格の設定には、同業他社との比較に基づいて独立企業間価格を算定する方法が採用されているという。この比較に基づく独立企業原則には、二重課税の危険性などのいくつかの問題点が挙げられ、一方、比較可能性を困難にする原因として、無形資産価値の算定の困難性、為替変動の影響、多国籍企業の組織形態の多様化、経済環境の急激な変化などが考えられることが指摘された。中富氏は、その上で、最近のOECDによる比較可能性の議論やEUの税制統合の動向を紹介しながら、現行の独立企業原則に基づく制度から定式による分配を活用する方法の可能性についての議論をした。

2009kansai1_3.jpg■■次に、木下徹弘氏(龍谷大学)により「Cost structure changes of Japanese man‐ufacturers amidst global competition」と題するテーマで報告があった。本報告は、日本製造業企業がグローバリゼーションの影響をうけてコスト構造をどのように変化させたかについて、上場企業746社の1980年から2006年の財務データを用いて分析した研究報告であった。グローバリゼーションが日本の製造業企業に与える影響は、世界中からの競合者の市場参入と加速度的なイノベーションによってもたらされる市場の縮小とデフレ圧力と定義される。こうした圧力をうけて、1990年代央以降、売上を頻々に減少させた企業は売上に対する原価の弾力性を高めたが、売上を順調に増加させた企業は原価の弾力性を緩和して規模の経済の利益を獲得しようとした傾向が強いことが実証された。

2009kansai1_4.jpg■■最後に、河田信氏(名城大学大学院教授)による、「「利益」から「利益ポテンシャル」概念へ- 財務分析の新たな可能性を探る」というテーマで報告があった。従来の経営理論は、投資家のために利益を拡大することを基礎としてきたが、今後は社会全体に利益をもたらすための理論を構築すべきであるという。このパラダイムシフトを考えたとき、従来のマネジメントの手法では無意識に部分最適化を選択してしまい、全体最適化に結びつかない場合も多い。TPSの導入は全体最適化に有効であるが、TPSの導入は容易ではない。そこでTPSとリンクした指標として、[売上総利益/棚卸資産]として表される「利益ポテンシャル」を提案する。これは利益率要素である[売上総利益/売上原価]とリードタイム要素である[売上原価/棚卸資産]を掛け合わせたものである。河田氏は、この指標ならば、TPSとリンクした業績評価が可能であり、財務分析の新たな視点として有用であるとする。

■■それぞれの報告の後には、フロアから興味深い質問が提出され、非常に活発な質疑応答がなされ、35名を越える参加者が熱のこもった議論を行い、有意義な関西・中部部会となった。

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